ダイの大冒険─最終回後─二次小説

ダイの大冒険最終回後の二次小説になります。

武器職人



 


 ─ジャンクの過去─


 


 ポップとマァムがそれぞれの故郷への帰路に就いてから時間は大戦翌日から三日後のポップが目覚める日まで遡る── 


 


 ポップの父ジャンクと母スティーヌに勇者ダイが大魔王バーンを倒し、この世界に再び平和が取り戻されたことを伝えたのはジャンクの武器屋の裏の森に住居と仕事場を置いているロン・ベルクだった。


 そして、同時にダイが空に消えた事やその際にポップの身に起きた事についても彼はその現場で見た状況を詳しく伝えた。


 ジャンクもスティーヌも青褪めた顔でその話を訊いていたが、とにかくその時はただ、ただ、二人の無事を信じて祈るしかなかった。


 しかし、それから数日後にもたらされた一人の青年による吉報がジャンクと特にポップの母スティーヌにとっては心底安堵するモノとなった。


「ノヴァ君、本当にありがとう」


 ジャンクはその厳つい手を北の勇者と呼ばれているノヴァに差し出す。


「いえ、僕に出来る事と言えばこのくらいで……レオナ姫に伺いましたが、彼を救ったのはあの勇者アバン様とポップ君と同じアバンの使徒の一人であるマァムさんの献身的な看護のおかげだったと訊いてます、御礼なら彼等に言って上げて下さい!」


 ノヴァは大戦後の翌朝には、世界中を飛んでいた。


 大戦直後、カール王国の王女フローラとリンガイア王国の将軍にして実父であるバウスンとの話し合いの中で、魔王軍による世界中に残された破壊の爪痕を確認し、今後の復興作業の為にその被害状況の報告をルーラで世界中を飛べるノヴァに頼んでいた。そして、彼はフローラと父バウスンの意向を受け役目を果たすべく飛び立った。また、更に彼は自分の判断から可能な限り最後の戦いに帯同していた兵士達の家族やその帰りを待っている人々の元に赴き、その無事や各々の活躍を告げて廻っていた。


「ポップが大変な状況だと訊いた時は生きた心地がしませんでしたが、でもあの子も私達の知らないところで強くなっていましたから……うぅ……」


「スティーヌ……また一つ、アバン殿に感謝する事が増えたな……」


 ポップの事を思うあまり、涙ながらに言葉に詰まる妻をジャンクは肩を抱いて気遣う。


「ええ……それにマァムさんにも……本当に良かった……ダイ君もきっと無事でいますよね……あの子だってポップだって大丈夫だったんだから……」


「はい、アイツは……ダイは必ずボク達のところに帰って来ますよ……」


 ノヴァはポップが目覚めた翌日にパプニカに訪れていた。その際フローラが率いるカール王国や自国リンガイアの復興状況、更に先に訪れていたベンガーナやロモス、テランの状況もレオナに伝えていた。また、そのレオナからもパプニカの状況を確認し、その時にポップがアバンとマァムの手で無事に目を覚ました事も訊いたのだった。


 そして、勿論ダイの事も話題に上がった………彼に関する情報はレオナ自身にも未だに掴めておらず世界中を回って来たノヴァも提供出来る情報は何も無かったのだが、しかしそれでもレオナのその瞳には力強い光が宿っていた。ダイが必ずこの地上に帰ることを信じ抜いているそんな思いに満ちていた瞳だった。


 そうして、ノヴァはその後パプニカを跡にしてフローラとバウスンに報告を終えると、彼はロン・ベルクの元へ向かい、今こうしてジャンク達の元にポップの無事を伝えたのだった。


「そういえば、ロンのヤツは相変わらずか……」


 唐突にジャンクはノヴァに訊ねる。


「ええ、今朝も出掛けたままです」


 ノヴァは大戦中に反目し合っていたロン・ベルクに今は師事している。自身を犠牲にしてまで自分達人間を護って戦い、勝利と引き換えに武器職人としてその命より大切な両腕を傷付けたその姿と心意気にノヴァは一人の男として尊敬の念を抱くと共に彼の腕が回復するまでの間、その腕の代わりになることを買ってでたのだ。


「しかし、ロンのヤツは何を考えているんだかな……二日前からここへ君を呼んでから、まだアイツから何も教えて貰っていないんだろう?」


 ジャンクはロン・ベルクから数日前にノヴァを紹介された為に彼等の関係を知っていたが、それから今日までの間にロン・ベルクがノヴァに武器造りを教えている姿を見たことはなかった。それどころか、彼を連れて来た日の晩にスティーヌを含めて4人で小さな宴を催した際には基本的な事はジャンクに訊けとノヴァに言っていた。


「先生にはきっと何かしら考えがあるのだと思います。ボクは武器造りの事は何もわからないまま、先生の腕の代わりになると大きな事を言ってしまいましたから、もしかしたら内心では怒っているのかも知れませんが……」 


「ハハハ!それはないさ……」


「え……?」 


 ノヴァは思わずジャンクの顔を見る。


「もしそうなら、君をここに連れて来ることなどしないさ……ましてやアイツが弟子入りを許すなんてな……」


 ジャンクはそう言うとロン・ベルクとの出逢いを少し語り出した。


「俺もアイツと知り合ってから大した月日は経ってないんだが、アイツは俺と知り合う前までは人との関わりを一切持っていなかったようだ……」


「一切ですか……?」


「ああ、ただ魔界ってトコにも居れなくなって仕方なくこの人間界に来たって言っていたが、それがなんと100年以上も前って言うから始めはてっきり担がれているのかとも思ったんだがな……だが、色々訊いているとアイツも苦労しているみたいでな……」


 そう言ってジャンクは少し遠い目をしながら話す。


「ジャンクさんはどうして先生と……?」


「ん?ああ……まぁきっかけはやっぱり仕事と言えば仕事だな……」


「仕事……武器作りですか?」


「まぁな……俺も昔はそれなりの武器を作っていた職人だったが、色々あって辞めてからは武器屋一本でやってるんだが……」


 ジャンクは隣のスティーヌに何処か申し訳なさそうな顔をしてみる。


「フフ……もう随分前の話しですよ?まだあなたは気にしてるの?」


 スティーヌは微笑みながら言う。


 ノヴァがそんな二人を怪訝な表情でみると、ジャンクではなくスティーヌが話し出した。


「主人は若い頃はとても腕の良い武器職人でした、ベンガーナのお城でもお抱えにして頂いていたのですが……」


 スティーヌはここから先はジャンクから話すようにと言わんばかりに彼に視線を向けた。


「ま、まぁ…そのなんだ……威張り散らしてるイヤな大臣がいてよ……それで……そのちょいとばかり小突いてやったらよ……」


「あら!まぁ……フフ……」


 ジャンクの物言いにスティーヌは思わず破顔する。


「わ、笑うなよスティーヌ!」


「ウフフ、ごめんなさい……でもちょっと小突いただなんて…フフ」


 その会話を訊いていてノヴァも流石に気付いた。


「大臣相手に大立回りでもしたんですか?」


「そ、そんな大立ち回りなんて!ちょいと小突いたら、なんか……寝ちまってな……」


「それって気絶でしょう?」


「うぐ……!?そ、そうとも言えるな……」


 ジャンクは自分の息子と同年代のノヴァに正論で返され思わず押し黙る。


「まぁ暴力はいけませんが、実は我がリンガイアでもその大臣との一件は耳に入ってましたよ、無論ボクの幼い頃の事でしたから父からの又聞きではありますが……」


「そ、そうか……なんだか面目ねぇ……」


 しかし、そう言って肩を落とすジャンクにノヴァは微笑んで言った。


「その大臣は結局その後に色々な不正が明らかになって国を追われたと訊いてますよ?」


「え……?」


「しかも、話をしてくれた父は嬉しそうに語っていたのをボクは幼心に覚えています、父も昔は今と違い血気盛んで、よくボクは昔の父に似ているとも言われました」


「ノ、ノヴァ君……?」


 ジャンクはノヴァの言葉の真意を図りかねて訊ねる。


「あ、いやいや……すいません!でも何も面目無いなんて思わなくて良いですよ?だって父はそのジャンクさんの意地悪大臣退治を祝って国で密かに宴会してたらしいですから」


「えーーー!?宴会!?」


「ほ、本当にっ!?」


 これには流石にジャンクもスティーヌも驚いて声を上げた。


「ハハハ!まぁ昔の事ですケドね……」


 当時その大臣は密かにベンガーナ王の椅子を狙っていたとも言われていた程、強権的な政治を当時の若きベンガーナ王クルテマッカⅦ世に進言し続けベンガーナ王国を意のままにしていた。


 無論、人格的には最低な人物で、例えるなら人間界のザボエラの様な男だった。


 そして、そんな大臣が失脚したきっかけこそ、先のジャンクの起こした事件だった。


「これも父から訊いた話ですが、あの当時のベンガーナ王国はあまり経済的に潤っていなかった様ですね……」


 ノヴァはかつてのベンガーナ王国の懐事情を訊ねた。


「ああ、今のようなデパートもそうだが、戦車や軍艦等の兵器なんて夢にも思わなかった程に国としては、かなり逼迫していたものさ……」


「でも、そんな中でもその国を支えていたのが、主人を始めとしたあらゆる職業の職人の方々でした……」


 ジャンクとスティーヌはノヴァの言葉を受けて昔を思い出す。


「あの時のベンガーナは確かに今よりは貧しかったかもしれないが、武器だけでなく衣類や国内に豊富にあった様々な資源を加工したりする技術に長けていた職人が多くてな、その腕の良い職人達の品は他国に輸出したりもして貿易でなんとか成り立っていた所もあった……そうそう!食い物も結構な評判だったぜ……」


「ええ、父もよくベンガーナ王国の品はみんな品質が良いといつも言っていました。特に武器に関してはジャンクさんも一役買っていたようですね♪」


「え……?」


 ジャンクは目を見開いて驚く。


「ジャンクさんは訊いたことありませんでしたか?″ベンガーナにジャンクあり!"って……!」


「おいおい、懐かしい事を言うなぁ!確かに昔は気の良い仲間内でそう言われていたこともあったが、単にからかわれていただけさ……俺なんかよりも遥かに稼いでた職人なんか沢山いたしよ……」


 ジャンクがそう言うとノヴァは首を振って答える。


「いえいえ、ご謙遜を!ジャンクさんの腕を買っていたのは父だけでなく、リンガイア王もおっしゃっていたことですよ!何しろリンガイアの武器や防具は隣国という事もありますが、殆どベンガーナから買い付けたモノですから!」


「まぁ、そうみたいだがな……ベンガーナ王もよくリンガイア王国には懇意にして貰っていたと言っていたな……」


「それに、ジャンクさんより羽振りが良かった職人は決して腕が良かったワケではない事は仕入れた武器を使用していた者にはわかってたようですよ……」


「ん……!?」


「あの当時、ベンガーナから仕入れた武器はその出来の良さに随分と差があったりもしたそうです……一見するとどれも同じ様に優れたモノにみえる品でも、使い勝手やその耐久性など使っている内にかなりの差があったと……」


「ああ、まぁな……同じ武器でもその作り手によるところは確かにあるな……でも、俺はあまり他のヤツの仕事には興味がなくてな……殆ど独学だったんだよ……」


「え……!?誰にも教わらなかったんですかっ……!?」


 ノヴァはこのジャンクの言葉に流石に驚いた様だ。


「いや、そりゃあ若い時は多少の基本は学んだが、なんつーか……」


「フフ……彼はこう見えて案外と器用なのよ♪」


「お、おい!?スティーヌ!」


 スティーヌの言葉にジャンクは年甲斐もなく照れている。


「そうなんですか!あ、だからか!?」


「ん……?なんだ?」


「ロン・ベルク先生がジャンクさんに訊けっていうのはきっと基本を先ずはジャンクさんから学べってことなんですよ!先生はジャンクさんの事を本当に信頼してるんだなぁ!」


 ノヴァがしみじみ言うとジャンクは顔を赤くしていたが、隣のスティーヌは誇らしくその姿に微笑みを浮かべていた。


「ですが、そんな腕の良い職人よりも稼いでる事に疑問を持った商人がいたようですね?」


 ノヴァは真剣な表情に戻って言う。


「ああ、よく知ってるな……お城に出入りしていた商人の一人がたまたま大臣と取り巻きの会話を訊いちまったらしくてよ……自分の手足の様に色々と汚ねぇ仕事も平気でやるいけ好かねぇ職人崩れには俺達が作る武器よりも高値で稼がせて、その内のいくらかを上納させて、てめぇの懐に入れいたらしい……」


 ジャンクは過去にベンガーナ王国内で大臣が行っていた不正行為を語った。


「それで、ジャンクさんは……」


「始めは話し合いのつもりだったさ……でも、不正をしていた自分の事を棚に上げてあの人を見下した態度がどうにもな……」


 スティーヌもその話については黙って訊いていた。ノヴァはその表情から当時はもしかしたら、かなり大変な目にあったのだろうと思いを巡らせた。


「まぁ……ただ、俺がしでかした事で仲間内や妻にまで嫌がらせや色んな妨害行為があったりしてな……かなり迷惑を掛けちまった……でも、ちゃんとみてる人っているモンだな……」


「……?」


「君の国のリンガイア王さ……」


「リンガイア王?ですか……?」


 ノヴァは目を見開いて訊ねる。


「そうか、そこまでは訊いていないか……リンガイア王からの書簡が当時のベンガーナ王を動かしたのさ……」


「どういう事ですか?」


「俺や俺の仲間内が作った武器だけしか今後は仕入れないって書簡を送って来たんだ……無論、ベンガーナ王は何故かと訊ねたが、リンガイア王からは返答の変わりに俺等が作った武器ではなく大臣が懇意にしていた職人崩れ共が作った壊れた武器や防具が送られてきたのさ……」


「そ、そうなんですかっ!?」


 ノヴァは思わず声を上げる。


「ああ、始めはベンガーナ王もリンガイア王の行為が理解出来ずに腹を立てたが、その時に俺達職人を集めて同じ武器を作らせたら、その見た目からはわからない材質に違いが有ることがわかったんだ」


「まさか、それで……」


「どうやら大臣は安い材料でそれらしく形だけ整えた武器を作ってリンガイアに売り付けていたらしい……そして、安い材料費で浮いたその金も懐に入れていたのさ……だが、よりによってその事実を集めた全職人の前でベンガーナ王が大臣に詰め寄ったモノだから、もう大臣は打つ手なしで大臣の息の掛かった職人崩れもそのまま処分されたよ……」


「そんな結末だったんですか……ボク達の国ではジャンクさんが国王に大臣の不正を進言したと……」


「ああ、そりゃ多分リンガイア王のウソだな……」


「え……!?ウソ?ですか?」


 ジャンクはニヤリと笑うと語り出した。


「俺が大臣をぶん殴っちまったのは事実さ……でも、その事を訊いたリンガイア王は俺を庇ってくれたどころか俺を英雄にしようとしてくれたみてぇだな……大臣の不正を暴いたってな……」


「どうして、そんな事を……?」


「俺達が作った武器や防具を本当に認めてくれていたから、もし俺が大臣の件で武器職人を辞めさせられたら困ると思ったのかも知れねぇな……」


「だから、英雄に仕立て上げて……ベンガーナ王にジャンクさんの恩赦を頼んだ?」


「さぁ、流石にそこまではわからねぇが……でも、ベンガーナ王からは職人から足を洗えとは一言も言われてねぇし、何か処分を言い渡されたワケでもねぇ……まぁでも、俺が職人を辞めたのは、ケジメってヤツさ……」


「そんな……」


 ノヴァはいたたまれない表情で告げる。しかし、ジャンクはニッコリ笑うと言った。


「みんな俺の職人仲間もそんな顔をしていたな……でもよ、俺は後悔なんかしてねぇよ……」


「え……?」


「大臣をぶん殴った事じゃねぇぞ……職人を辞めた事をさ……」


「どうしてですか?」


「それはな……変わらなかったからだよ」


「……変わらなかった?」


 ノヴァは怪訝な表情になる。


「ああ、どいつもこいつも変わらず俺との付き合いを続けてくれている……さっき言ったろ?他のヤツの仕事には興味がなかったってよ……」


「ああ、はい……」


「確かにそれまではそれは、本当でよ……なんつーか人付き合いが得意じゃなかったのもあるのさ……正直な……でも、その大臣の一件で職人連中との絆みてぇなモンが強くなったのかわからねぇが……よく他のヤツ等が俺のところに訊ねて来るようになってな……職人なんてどいつもこいつも、てめぇの腕には人一倍自信を持ってるヤツばかりだがよ……こと人付き合いに関しては不器用な連中ばかりなのさ……でも、俺がケジメをつけて職人を辞めてもヤツ等は俺と距離を取るどころか、前にも増してよく顔を出してきてな……俺も職人を辞めてはいたが、困っている事にはまぁ多少手を貸してやったりしてたのさ……」


「そういうことでしたか……」


「ええ、だから彼は他の職人さん達のお仕事もよく知らなくてはいけなくなったの……」


「付き合いそのものは変わらないけど、でも前よりも濃くなったモノもあるのでは?」


 スティーヌの言葉にノヴァがそう告げると、ジャンクは再びニッコリ笑って照れ臭そうに頷いた。


「まぁ、そうだな……」


 ノヴァはこの時、師ロン・ベルクが何故このジャンクという人間に心を開いたのか、わかった気がした。見た目は強面で不器用な感じはあるが、本当に気高く同時に深い思いやりに溢れた人物であり、特にロン・ベルクには自身を犠牲にしても大切な誇りを守るという姿勢に何か感じ入るモノがあったのかも知れないと思った。


「すまんな……長々と話しちまったが、ロンとの出会いのきっかけもある日突然、ひょっこりと俺の店に来てな……"偉い大臣ぶん殴ったヤツの店はここか?"って言ってきてよ……」


「え!?先生がっ……!?」


 急な展開にノヴァが驚く。


「おかしなフードをすっぽり被っていかにも怪しい雰囲気だったから、冷やかしかなんかと思って追い出そうとしたんだがよ……そしたら……」


「そしたら?」


「一本の剣を差し出して来て、"自分の作った武器をお前のような男に売って貰いたい″ってな……」


「それで、ジャンクさんは……」


「俺もまぁ武器職人の端くれだからな……そのロンが見せてきた剣がどれ程のモノかすぐにわかったよ……正直言えば、ホレたってヤツだ……ヤツの作ったその武器とその腕に……」


「凄い……」 


 ノヴァの目は二人のやり取りを想像しながらキラキラと輝いていた。


「まぁ……だから、さしてアイツとの間には言葉はいらなかったのさ……」


 ノヴァは師ロン・ベルクとジャンクのこの話を訊いて心の底から感嘆していた。


「ハハハ……本当にすまんな……長々とつまらない話をした……」


 ジャンクは照れ臭そうにそう言うが、ノヴァは何度も首を振りながら言った。


「いえ、貴重なお話しありがとうございました!ロン・ベルク先生がジャンクさんと仲良くしている理由もよくわかりました!」


「まぁアイツはあれで色々とわかってくれてはいるからな俺も不思議と付き合い易いんだわ……まだまだ謎も多いヤツではあるがな………お!?そうだ謎と言えば、ここ最近ロンはいつも何処に行きやがるんだろうな?」


 自身の過去を話し終えると、ジャンクがノヴァに訊ねる。しかし、ノヴァはジャンクのその言葉を訊いて少し気掛かりな事を思い出していた。


 


 ダイが空に消えたあの後、ノヴァはその場にいた全員と同じ様に絶望していた。いや、ダイのあの行為に対する怒りすら彼は隠そうとしなかった。しかし、その場で自身のその怒りを露にする事さえ、愚かに思える程に周りの者達のショックは計り知れない様相だった。


 そして、勇者ダイに思慕の想いを秘め最後の最後まで彼と共にあったパプニカ王国の姫レオナと勇者ダイと最初からずっとその傍らで支え合い、この熾烈な大戦を潜り抜けて来た親友である大魔道士ポップの身に起きた出来事は大きかった。


 その中でノヴァが師とその心に決めた男は冷静沈着に告げた。


「まだ終わらない……か……」と……。


 ノヴァはこの言葉の意味をその際に訊ねたが、彼はそれ以上の言葉を口にしなかった。


(「ロン・ベルク先生はどうしてあんな事を……」)


 今日もジャンク達の元に赴く前にパプニカからルーラで飛ぶ際に目の端に入った巨大なピラァ。


 パプニカ地方にも聳えるそれは、大魔王バーンの手によってバーンパレスから世界中に投下された内の一本だ。そして、そのピラァの頂にはヒャド系呪文で凍らされているとはいえ、この地上を吹き飛ばす程の威力を秘めた黒の核晶(コア)という魔界産の超強力な爆弾が今も存在している。


 大戦後の話し合いの中でフローラは特にその事に気を揉んでいた。


 あの時、神の涙であったゴールデンメタルスライムことゴメちゃんの力で世界中の人々にこの黒の核晶(コア)による危機が伝わり、心ある人間達の手によって爆発の危機は回避されたが、黒の核晶(コア)自体は今も消滅したワケでもなく、ヒャド系呪文であくまでその起動を停止している状態であるというだけだった。


「先生は、やはりこの事を危惧しているのだろうか……」


 しかし、ノヴァは師ロン・ベルクの口から零れたあの言葉の真意をこの時は、まだ図り兼ねていた。


 

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✦作者コメント✦



 ポップとマァムの件が少し落ち着いたので、今回から他のキャラクターにスポットを充てようと思い、今回の話しになりました。

 本編のダイの大冒険の中で、気になるシーンを独自の解釈で掘り下げていこうと思いますので、暫くお付き合い頂けると嬉しいです。

 また、今後の展開にとってかなり重要な話になりますので、書き手としても緊張感を持ちながら頑張ります。

 さて、今回はロン・ベルクが本編ダイでチラっと言っていたジャンクの過去です。威張り散らしていた大臣をぶん殴ってベンガーナの武器職人を辞めた理由とはなんだったのか?ポップも気にしていたシーンでしたが、今回はノヴァ君に聞き手として参加して貰いました。少しずつノヴァの今後も書いていきたいので、そろそろ登場させようという思惑です。本編ではちょっとアレでしたが、結構彼にも今後は強くなって貰いたいとも思ってます。