戦士の憂鬱
─消せない希望─
大戦後から一夜明け、ヒュンケルはパプニカ城の一室で目を覚ましてから暫くの間、先の大戦を振り返っていた。
時間にして僅か三ヶ月と少し。ヒュンケルの人生にとって最も濃密な時間が通り過ぎた感覚だった。そして様々なモノを失い、それ以上に得て来た時間だった。
目を閉じ静かに、ただ静かにその心を落ち着かせた。
右手に力を込める。
左手にも同じ様に………。
「失ったもの………か………」
ヒュンケルの体力はやはり完全には戻らなかった。もう少し身体を休めれば………という類いのモノではないと言うことも理解していた。そして、それ以上にヒュンケルの胸に暗い影を落とすモノがあった。
「ダイ………ポップ………」
悔やんだ。
あの黒の核晶(コア)の爆発の中に消えたダイ。そして、爆発のダメージによって今も目を覚まさずにいるであろうポップの事を思い浮かべていた。
「俺は、また………大切な弟弟子を守れなかった………」
俯いて自分の両の掌をもう一度握るが、やはり本来の力は感じられなかった。
「俺は………どうして………いつも大切なモノを守れないのか………」
脳裡に浮かぶのは幼い頃の悲しい別れ………魔物にして唯一無二の父だたったバルトスとの別れだった。
コンコン!
と、その時。部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
ヒュンケルが応えると扉を開いてエイミが顔を出した。
「おはよう、ヒュンケル」
「エイミ、どうした?」
いつもの様にややぶっきらぼうに返すと。
「相変わらずね、朝食が食堂に用意出来たから呼びに来たのよ」
「そうか、すまない。だが………」
ヒュンケルは俯いて応えると
「悪いが、あまり食欲がないんだ」
エイミの申し出をやんわり断ろうとした。しかし………
「ダメよ!食欲がなくても少し位は口にしないと、体力も戻り切らないわよ!」
エイミは大戦後、ヒュンケルの様子を一番に心配してバーンパレスから彼等が脱出した際には真っ先にヒュンケルの元に駆け付けた。その時のヒュンケルの容態はエイミも一目でなんとなく理解していたが、後にアバンから状況を詳しく訊いて、もう既にヒュンケルは戦えない身体になった事を知っていた。
しかし、今は敢えて少し強引にでも強くそして、明るく彼に接する事にしたのだ。
「………そうか、それもそうだな。わかった頂くことにしよう」
ヒュンケルはエイミがわざと明るく繕っている事にも気付いたが、不思議とその明るさにさっきまで暗く沈んでいた気持ちが少しばかり軽くなった。
「そう、よかったわ!」
「ただ、その前にポップの様子を見てこようと思うが、姫は大丈夫なのか?」
「ええ、姫様は先程お目覚めになったわ、でも逆に私達が心配されちゃって朝食を食べたら少し休ませて貰うわ」
エイミは明るく振る舞ってはいるが、ヒュンケルには彼女の疲れが見て取れた。
「夜通し姫の事を看ていたのだろう?ゆっくり休むと良い」
「?私、疲れているようにみえる?」
エイミが尋ねると
「ああ、目の下にうっすら………」
「え!やだ、さっき少しファンデーション塗ったのに!」
「俺は目が良いんだ」
「そういう時は目が良くならなくていいのよ!」
エイミは女心の解らないヒュンケルに困って思わず叫んだ。
「そうなのか、すまん」
「フフッいいわよ!じゃあ食堂に行ってるわね」
「ああ、エイミありがとう」
ヒュンケルのその言葉にやや頬を染めてエイミは扉を閉めた。
(ありがとう………か………)
ヒュンケル自身もどこか不思議に感じた。こうも自然と人に礼を述べれるのか…と。
以前の自分には考えられなかった事だ。三ヶ月前の自分には絶対に。
変わっていく事の怖さがいつの間にか消えて今は、変わりたい自分もいるのかも知れないとも思うようになった。
(変わることで、新たな強さを身に付けられるなら、再び俺を生き返らせるには精神からの肉体の復活に臨まなければならないのかも知れないな………)
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✦作者コメント✦
ヒュンケルの抱えているモノは、いつも贖罪なんですよね。だからこそ、時にカッコ良く、時に痛々しくも映るところが魅力なんでしょう。でも、だからこそ幸せを諦めて欲しくないですね。そう言った部分で言えば彼が新しい力に目覚めるには、これまでの自身を変革した先にあると考えて、この話しになりました。
その際に、彼に最も寄り添える相手はマァムなのか?エイミなのか?という、またまた難しい話しになるワケですね……(^_^;)
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