ダイの大冒険─最終回後─二次小説

ダイの大冒険最終回後の二次小説になります。

大魔道士の師弟



 


 ─ポップの使命─


        ─隣に居る理由─


 


 ポップを探して歩いていたマァムは、浜辺で出くわしたクロコダインとヒムにポップがマトリフと一緒だったと聞き、マトリフの住居になっている岩穴に向かった。すると、丁度その岩穴が見えたところでマトリフとポップが中に入っていくのを目にした。


「やっぱりいたわ……もう、病み上がりなのに動き回って大丈夫なのかしら?」


 ポップを気に掛けてマァムは自分もマトリフの住居である岩穴に向かった。


 


 


「まぁそこに座れ……」


 マトリフは小さなイスをポップに勧めて、自分はお気に入りのロッキングチェアに座る。


「師匠、横にならなくていいのかよ?」


 ポップはマトリフの身体を案じて言う。


「おう、それがよ……バーンが消えたからか、地上を覆っていた邪悪な空気が薄らいできてるみてぇでな……最近は随分と調子がいいんだ」


「そうなのか?へぇ~意外なところにバーンを倒した恩恵があったんだな!」


 ポップが驚くと今度はマトリフが愛弟子の様子を窺う。


「おめぇは…もう本当に身体は大丈夫なのか?」


「ああ、心配掛けちまって悪かったよ……もう完全に大丈夫だ!」


「そうか、なら良かった……」


 マトリフはしみじみそう言うと、徐に袖の下から一冊の古びた魔導書を取り出してポップに渡した。


「……?なんだいこれ?」


 ポップが怪訝な顔をしていると…


「昨日、パプニカの図書室で失敬してきた魔導書だ、中をみてみろ…」


「しっ…!失敬って泥棒じゃねぇかよ!」


 サラっととんでもないことを言い出すマトリフにポップは声を上げた。


「後で、ちゃんと返しとくよ!とにかく中をみてみろ!」


「だ、大丈夫かよ!絶対返せよ……たくっ……?……これって……なんて書いてあるんだ?」


 ポップはボヤきながらも、言われた通り中をみると、みたこともない文字が並んでいる。


「そいつは魔界で使われている魔族の文字だ……パプニカの図書室の奥~~~の方にあったもんだが、お前とりあえずこの魔族文字を読めるようにしとけ」


「えええぇぇーーー!なんで今更~!魔族の文字を読めたってしょうがねぇだろ?」


 ポップはあからさまに嫌な顔をする。


「はぁ~……ま、おめぇはやっぱりそういうクセが抜けねぇか……必要に駆られなきゃ努力しやがらねぇ~」


「な!?そ、それは……そうだけどよ……でも、マジでなんでこんなもん?」


「おめぇよぉ……三日前にパプニカ城に運ばれて来た最初の晩に大分うなされてたの覚えてるか?」


「いや、覚えてねぇよ……そんなにうなされてたのか?俺……」


 マトリフの唐突な質問に困惑するポップ。


「まぁ、アバンとマァムが殆どお前の看護をしていたが、たまたまアイツらが席を外していたそん時に俺が代わりにお前を看ていたら、うなされ始めたんだ……」


「そうだったのか……すまねぇ……全然覚えてねぇや……」


「別に謝る必要はねぇがよ……そしたら、お前……その時にみていた夢は覚えているか?」


 マトリフのその言葉を訊いた瞬間ポップの表情が一瞬、固まった。


「覚えてるんだな……?」


 マトリフは鋭い視線をポップに向ける。と、同時に岩穴の入り口に気配を感じた。


「ああ……あんなおっそろしいモン……忘れたくても忘れらんねぇよ……」


 ポップはその気配には気付いてないようで、神妙な顔でマトリフの言葉に頷いた。


「ヴェルザー……おめぇはあの時、うなされながら、そう呟いていたぜ……」


(「ヴェルザー!?……ヴェルザーってまさか……!?あの…!?」)


 マァムが岩穴の入り口で二人の話を静かに訊いていた。


「そうか、うなされながら……」


「何を見たんだ?」


 ポップは下を向いて俯いていたが、ゆっくりと口を開く。


「ダイの親父さん……バランとそのヴェルザーっつーとてつもなくでかくて、闇の様に黒い邪悪なドラゴンとの戦いだ……そして、俺はバランの視点でその戦いを見ていた……」


「やはり……竜の血の影響か……」


「竜の血!?」


 マトリフはポップがメガンテで命を落とした際に純粋な竜の騎士であるバランの血を飲んで甦った話しから、ポップの中の竜の血の記憶がバランの視点を通して、かつてバランがその死闘を演じたヴェルザーとの戦いを見せているのではないかという自論を切々と話した。


「まさか……それで俺はあんな夢を……」


(「ポップ……」)


 ポップはその顔に不安の色を浮かべる………そして、マァムは今の話を陰で訊きながら、ポップの事を案じた。


「俺が思うに、お前のその記憶はバラン、もしくわ竜の血そのものからのメッセージだろう……」


「メッセージ?」


 マトリフは頷くと、その自分なりの解釈をポップに語った。


「ああ、ヴェルザーに対する警戒を促しているのかも知れねぇ」


「……!?」


(「……!?」)


 ポップも、そしてマァムもそのマトリフの言葉に戦慄を覚えた。


 バーンとの熾烈な戦いを終え、やっとこの平和を勝ち取った矢先に、新たにこの地上を狙う敵が現れる可能性を示されたのだ。しかも、その敵とはあのダイの父バランが死闘の末にようやく倒したおそるべき邪悪な竜だった。


「師匠……俺は……」


 ポップは思い詰めた顔でマトリフを見る。しかし、マトリフはまた違う意味で神妙な表情を浮かべて言った。


「それとなポップ……これだけは絶対に守れ」


「えっ……!?」


「ヴェルザーの事は決して他言無用だ。今はバーンが倒れ、ようやく地上に平和が戻った。それなのにヴェルザーの事を出して、いたずらに不安を煽る事をするべきじゃあねぇ……」


 マトリフは厳しい顔でポップに告げる。


「あ、ああ……わかった……」


 ポップは気圧される様に頷いた。


「よし、あともう一つ……お前が見た夢はそれだけじゃなかったろ?」


「え……」


「これは、俺だけじゃなくあの場にいたアバンもマァムも訊いていた事だが……お前はうなされながら、ダイの名も何度も呼んでいた……」


「……ダイ………」


 ポップはあの黒の核晶(コア)の爆発の直前の光景を思い出していた。


(「……ごめん……ポップ……!!!」)


 そして……あの夢の中……


(「ごめん……ポップ……」)


 あの空とそしてあの夢の中で……二度……親友の背中を見せられた。ポップは拳を握り締めて、やりきれない思いを露にする……


 すると……


「直ぐに割り切れるモンじゃねぇ……ゆっくりで、いいんじゃねぇか……」


 マトリフはポップの心の内を慮るように優しく言った。


「師匠……俺にもダイがどうしてあんなことをしたのか……解ってはいるんだ……けど、けどよ……」


「ああ……んじゃアイツが帰ってきたら……」


「帰ってきたら?」


 ポップは怪訝な顔をしてマトリフをみる。


「ぶん殴ってやれ!!」


「へ……?」


「おめぇには、その権利がある!!」


「………あ……は…ははは……!」


 師の唐突な強めの言葉にポップは唖然としながらも、思わず苦笑いになる。そして、マトリフも……


「ひひっ!あの大魔王バーンをぶっ倒した天下の勇者様を遠慮なく思いっ切りぶん殴ってやれや!!!」


「ぷっ……!?……あははははは!!そうだな!俺はアイツの兄弟子なんだしな!!何が勇者だ!何が竜の騎士だ!!アイツはどこまでいってもアイツだ!!!」


(「ポップ……」)


 岩穴の陰にいるマァムも密かに優しく微笑んでいた。その瞳に涙を湛えながらマァム自身もダイの事を……そして、そのダイを思うポップの心を思いながら……その胸に暖かいモノを感じてゆっくりと静かにその場を後にした。


 


 その後、マァムの気配が消えたことに気付いたマトリフは今一度、真剣な表情に戻りポップに語り出した。


「いいか、ポップ……ここからはもう少し突っ込んだ話をするからよく訊け……」


「え……?」


 ポップはマトリフのその異様な空気に身を引き締められる思いで姿勢を正して改めて向き直った。


「よし、いいだろう……先ず今の状況を整理する。ダイのいないこの状況だ。お前はどうみる?」


「どうっ……て、さっき言ったばかりだろ?アイツには絶対戻ってきて貰わねぇとよ、殴るにも殴れねぇだろ?」


「まぁそうだな……んじゃ帰るのを待つか?それとも……」


 マトリフがポップの顔を覗き込むように言う。


「……それは………どっちもだな!」


「どっちも?」


「ああ、探しにも行くさ!当然な!でも今は国や街の復興の方が先さ……!」


 ポップは真っ直ぐに言った。ダイの事を必ず見つけ出す。しかし、今は魔王軍に破壊されたこの地上の復興を優先させる必要がある。その間にダイが帰ってくる可能性があるのかどうかはわからないが、ポップはどういう形であれ、必ずダイがこの地上に戻る事を信じていた。


「わかった……そうだな、だがそれはお前だけの話しじゃねぇやな」


「あ?ああ……まぁそうだけど?」


「んじゃ、次はお前自身の事を話そう」


「俺自身?」


「そうだ、ダイを探しに行くにしても待つにしても、そのお前自身の立ち位置だ」


 ポップはマトリフの言うことがなんとなくわかった。


「なんかの覚悟……って事か……?」


 マトリフはゆっくり頷く。


「そうだ、ダイがいない今……お前が皆の要になるべきだと昨日もアバンと話したんだ」


「先生と?」


 ポップはアバンの名前を訊いて更に心が引き締まるのを感じる。


「バーンとの最終決戦のまさに終盤、お前とダイ以外の全員の身動きが取れなくなった中でお前等はたった二人で諦めることなくバーンに立ち向かっていったんだってな……」


 アバンから聞いていた話をマトリフは語る。


「ああ……あの時はホント無我夢中でよ……冷静な頭なんてなかったぜ……でも、どうにもならないってわかってても……じっとしてらんなかったんだ……」


 ポップはあのバーンとの終盤の戦いを振り返った。仲間達が瞳と呼ばれるバーンの鬼眼の力で次々とその動きを封じられ戦線を離脱していった中で、最後に残った二人だけで大魔王に立ち向かっていった時、ポップはダイと共に必死に纏わり付くようにバーンに何度も何度も挑んでいった。そうあの大魔王バーンが驚愕する程に……


「その姿を、その時に動けなかった奴らがずっと見ていたんだよ……お前等二人の背中をずっとな……だが今はバーンに向かっていったその二人の内でお前しかいねぇワケだ……それが、どういう意味かお前ならわかるだろ?」


「師匠……」


 ポップは自分に向けられた師マトリフの真っ直ぐな眼差しと言葉を、自らの心で真剣に受け止めた。  


 


 


 マァムはマトリフの住処である岩穴を去った後、一人浜辺を歩きながら考えていた。ポップが受けたあの黒の核晶(コア)の爆発での傷は肉体的なことだけでは無かった。ダイを失ったショックはポップの心に大きな傷を残したのだ。そしてそれは、マァムやアバンや他の仲間達も同じだった。しかし……


「ポップ……やっぱり、そうよね……あなたはずっとダイと一緒だったんだから……」


 マァムは自分達がダイを失ったショックとは、また少し違う傷をポップが負っているのではないかと、その気持ちを慮る。と、その時、マァムの脳裡にバーンとの最終決戦の光景が浮かぶ。自分達がバーンの瞳に閉じ込められた中で、ポップとダイはたった二人で大魔王バーンに向かっていった。何度も何度も立ち上がり、何度も何度も傷付いて、それでも必死に、それでも諦めずに、ポップはダイと共にあの大魔王バーンに向かっていったのだ。


「そっか……あの時もあなたはダイと………」


 マァムは不思議な感覚になった。あの二人の背中が更に色濃く脳裡に浮かび上がって来たのだ。そして、そうあの時の……初めて彼等と出会いそして、彼等の背を追って共に旅の仲間に加わった時の事を……その胸の内に浮かべる。 


「ポップ……ダイ……私は…今の私にはあなた達に何が出来るの?」


 何故か、その瞳から涙が溢れてくる。その涙の意味をマァムは自分の全てで感じる。胸が熱く高鳴るのを感じる。立ち止まり、瞳を閉じて二人の背中を再び思い浮かべる。と……少しずつダイの背中が見えなくなっていく……胸が痛い……悲しみが込み上げてくる……強く強くその手を握り締める……その何かに耐えるように……


 すると、ふとあることに気付いた。手が……握り締めた右手が暖かい……優しい温もりがこの手に感じられる。


「ポップ……」


 ポップの背中が浮かぶ中、こちらに振り返る形で彼はマァムに微笑み掛ける。そして、その手を伸ばす……マァムの鼓動が高まる。マァムは乞うようにその手を伸ばす……ポップが伸ばす、その手を目指して……


 海の風がマァムの薄い桃色の髪をを優しく撫でる。


 我に返ると暖かいその右手を、熱い胸の前で強く握っている。そして、その右手を自身の左手で包むように握る。何かを祈るように……


「ポップ……」


 その胸を熱くする、その人の隣にいるつもりで……


 


 

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✦作者コメント✦



 ポップとマァムの繋がりをこういう形で表してみました。ポップの中のダイとマァムの中のダイ、ポップ。この始めのダイ、ポップ、マァムのチームは本当に好きで、原作でもクロコダイン戦、ザムザ戦と2つの戦闘でしかこのチームでの戦いはありませんでしたが(ザムザ戦のチウはとりあえず置いといて…(^^;))この最初の三人はまた違う特別な絆が存在していると勝手に思ってるんです。ポップの背中をマァムは絶対に見失わないという想いがわすかでも表現出来ていれば何よりです。