ダイの大冒険─最終回後─二次小説

ダイの大冒険最終回後の二次小説になります。

ダンス大会



 


 ─勇気の一歩─


 


 レオナ主催の復興とアバンのフェアウェルパーティーは中盤を迎え、日も高く登り今は皆が、それぞれ好みの露店でランチを楽しんでいた。そんな中でポップは一人、人気のない岩場で冴えない顔をしている。


 


 グウゥ~


 


「あ~あ腹へったなぁ……昨日のマァムのサンドイッチとキッシュ美味かったなぁ~」


 ポップは腹を空かせながら、一人ボヤいていた。


「やっぱ……謝んなきゃな……」


 昨夜のマァムの涙が頭から離れない。自分はいつもそうだ……ポップはそう思って悔やんでいた。大好きな相手にどうしても辛く当たってしまうところがある。


「そういえば……初めて出来た好きな子も泣かせたことあったな……あの時は親父にこれでもかってくらい怒られたっけ……」


 まだポップが幼い頃。故郷のランカークス村の近所に活発だがとても可愛らしい印象の同世代の女の子が引っ越してきた。その子の家族は旅芸人一座で、ランカークス村を起点にベンガーナの城下町や周辺の村々でサーカスや見世物小屋を開いていた。そんな時、ポップは父であるジャンクにせがんで、その旅芸人一座の公演を家族で見に行った。珍しモノ好きなポップは目を輝かせてその一つ一つに胸を踊らせて楽しんでいたが、講演の終盤に行われた沢山の小さな動物達を操る少女の姿にいつの間にか惹き付けられていた。


 程無くして、ポップはその少女と講演以外の時に顔を合わせる様になった。最もランカークスはさして大きくもない村である、子供達が集まって遊ぶ場所も限られている為、自然と顔を合わせる事になるのだ。


 ポップはその子が芸の練習の合間に、いつも自分達が遊ぶ広場に来るのを知って仲良くなった。初めはどうして動物がなつくのか?とか今までどんなところでサーカスをしてきたのか?など訊ねたりしてポップだけでなく他の子供達もその子に興味津々で、皆で楽しく遊んでいた。


 やがて、ポップはその子に好意を持っていた事から優しく接して、その子もそんなポップの優しさに他の子供達よりも心を許していった。


 が、そんなある日、その子の家族が次の講演場所である、遠い町でサーカスを開く為、数日後にランカークス村を離れる事になった。


 ポップは子供心に焦った。早く気持ちを伝えなければ彼女がまた、遠い町に行ってしまう。ポップは悩んだが、気持ちは直ぐに固まった。そして、彼女が旅立つ前の日に二人でよく遊んだ村の広場にある大きな木の下にその女の子を呼んだ。しかし、やはりいざその少女を前にすると胸が早鐘のように鳴り、少しも落ち着けない。ポップはなかなか想いを言葉に出来ないでいると、彼女の方からポップに話し掛けてきた。なんの話しかと思っていると、あろうことか彼女は今、好きな人がいて将来はその彼のお嫁さんになりたい、と言い出したのだ。ポップはショックというよりも何か悪い夢でも見ているかのような感覚を覚えていた。その彼は一緒にサーカス講演で各地を廻っている猛獣使いの青年で、ポップも講演中に猛獣を使うその青年をハラハラしながらも夢中になってみていたので、よく知っていた。訊くと彼は旅の途中にサーカス団の団長がスカウトした身寄りのない青年だった。そして、彼はその少女よりも十才も年上という事だった。ポップはその少女が話す青年の話を殆ど上の空で聴いていたが、所々その話を聴きながら、少しずつ自分が惨めな気持ちになっていった。しかし、そんなポップの気持ちに気付かず彼女はその憧れの青年の話を嬉々として話している。そして、少女はポップに訊ねた。自分は彼のお嫁さんになれるか?と……


 しかし、そこでポップはとうとうその少女にフラれるに決まっている!などと彼女の恋心を踏みにじるような事を言ってしまった。その瞬間、彼女は目に涙を浮かべてその場から立ち去ってしまった。


 その後、肩を落としながら自宅に帰り、父親のジャンクと母親のスティーヌに彼女を泣かしてしまった話をすると、ジャンクにこっぴどく叱られ、ジャンクは力ずくでポップを連れ出し。その彼女の家族が借宿にしていた家に赴くと、彼女の両親にワケを話し、謝罪に来た事を告げた。両親は丁寧に対応してくれたが、しかし結局そのポップの初恋相手は一切顔をみせる事もなく、やがて翌日には家族と共に次の講演の為に村を出立してしまった。


「はぁ~嫌なこと思い出しちまったな……」


 その後、暫く立ってスティーヌから彼女の両親が送ってきた手紙にその少女はもう元気に新しいサーカスの演目を練習しているので、ポップに気にしないでと伝える様に書いてあったことを告げた。ポップは、その事を伝えながら、優しく微笑む母の胸で声を上げて泣いた。スティーヌは大好きな子を傷付けるのは自分も傷付ける事と同じだと言ってポップに言い聞かせた。ポップは泣きじゃくりながら何度となく頷いていた。


「母さんに……言われてたのにな……マァム……」


 そう呟きながらポップはこれまでのマァムとの時間を思い返していた。始めは嫌われ、やがて信頼し合える仲間として存在し、そして、想いを伝えた大切な人………ポップは静かに目を閉じてマァムを想う……


「えーい!!グダグタ考えててもしょうがねぇ!!とにかく!あやまるしかねぇ!!許してくれるまで土下座でもなんでもしてやるっ!!」


 グウゥ~


 再びポップの腹が鳴る。


「そうだった……腹も減ってたんだ……よしっ!腹が減っては戦は出来ぬだ!!」 


 そう勢い付けてポップはパーティー会場に向かった。


 


「はいは~い!みんなパーティー楽しんでね~♪」


 ハイテンションで声を上げているのはランチでワインをたらふく呷っていたレオナだ。


「ちょっと大丈夫レオナ!?またそんなに飲んで!」


「そうですよ姫様!これから姫様が楽しみにしていらしたダンス大会ですよ?そんなに酔っていてはさすがに……」


 レオナを心配して、マァムとエイミが介抱しながら言う。


「なぁ~んでもないわよ!このくらい~酔ってません!酔ったうちに入りましぇ~ん♪アハハハ♪」


「完っ全に酔っぱらってるわよ……」 


 マァムもエイミも困り果てていたが、会場にはダンス大会の参加者やその観客が続々と集まって来ている。仕方なくとりあえずはエイミが人員整理をしに行ったので、マァムはレオナの介抱を続けた。


「う~ん……もうちょっと飲めるわよ~♪」


「もうさすがに飲み過ぎよ」


「いいじゃない、今日はパーティーなんだから~♪」


「そのパーティーの主催者がこんなになってどうするのよ?」 


 マァムが最もな事を言うとレオナは急に静かになる。


「……?レオナ……?」 


 見るとレオナは涙を浮かべていた。


「ダイ君と踊りたかったな……」


「レオナ……」


「フフッ♪きっとヘタクソよダイ君♪ダンスなんてしたことないだろうし」


 レオナは涙を拭いながら力なく笑う。


「でも、私が教えて上げるの、手を取って……ステップはこうで……って♪フフッ彼の慌てる様子が目に浮かぶわ♪」


「そうね……でも、きっとあなたの為に一生懸命に覚えるわ……」


「うん……そうよね……うん……うん……」


 再びレオナの瞳が潤う。


「楽しみね、ダイが帰ってくるのが!」


「え……!?」


 マァムの思いがけない言葉にレオナは涙を瞳に残しながらも顔を上げてマァムをみる。


「だってそうでしょ?世界を救った勇者とお姫様のダンスだもの!私だって見たいわ!」


「マァム……フフ♪そうね、そうよね!」


「ええ!さぁ!みんな待ってるわ!」


「うん!」 


 そう言ってレオナは立ち上がろうとするが……


「あ、あれ?」


 やはり、ワインの酔いが効いている為にまともに立つことが出来ない。


「ちょっと!大丈夫!?やっぱり飲み過ぎよ!?」


 マァムが慌ててレオナを支えるとレオナはマァムに寄りかかりながらボヤく……


「う~それもこれもみんなダイ君のせいよ~」


「これは違うでしょ……」


 マァムが苦笑いで応えるとレオナが言った。


「ごめんねマァム……とりあえず控え室に連れてって……」


「お城に戻らなくて平気なの?」


「大丈夫、大丈夫♪暫くすれば、醒めるから~♪」


 ヒラヒラと手で扇ぎながらレオナはマァムにもたれ掛かっている。


「ふふふ……こんな所みられたらポップ君に嫉妬されちゃうかしら?」


「な、何言ってんのよ!?そんなわけないでしょ!?」


 マァムは赤くなりながら、レオナに言った。


「じょ~だんよ♪じょ~だん♪」


「もう!お姫様が酔っぱらいなん締まらないわよ……」


「はいは~い♪気を付けま~す♪」


 上機嫌なままのレオナを抱えてマァムはエイミが事前に教えておいてくれた主催者用の控え室に向かった。


 


「おお!?なかなか美味いっすね!これ!!」


「そいつは、よくこの辺りで獲れる魚を譲ってもらってこしらえてんだ!パン粉付けて油で揚げてパンにはさむだけで作れるから簡単さ!」


 ポップは以前、ダイの武器探しでパプニカの城下町の武器屋巡りをしていた際に顔見知りになった、とある店の主人がカツオバーガーの露店を出していた為、立ち寄って空腹を満たしていた。


「大魔道士のあんちゃん!こっちのも食ってってくれよ!ケバブって肉料理なんだけど、イケるぜ!!」


「なんの!こっちの川エビの唐揚げも負けてないぞ!食ってってくれよ!」


「甘いモノはいかが~?フワフワ氷のかき氷もあるわよ♪」


 ポップの周りにはいつの間にかそれぞれの露店の店主達が自分の店の食べ物を持って集まっていた。


「世界を救った大魔道士さまに食べて貰えればウチの店も箔が付くってもんよ!」


「そうそう!こっちも食べてよ!美味しいよ!」


「わ!わかったよ!みんな食うからせめて自分のペースで食わせてくれ~!!」


 ポップはその言葉通りに美味しく味わいながら、各露店の出し物を空腹の胃袋におさめていった。


 そして……


「ふぅ~食った食った!もう入らないよ~」


「いやぁさすがの食いっぷり!お見事ですな!勇者様にも食べさせてあげたかった……」


 ある露店の店主がそう呟くと他の人達も俯いてしまった。


「……大丈夫っス!!」


「えっ……!?」


 ポップの一言に集まっていた周りの店主や人々が顔を上げてポップをみる。


「アイツは……アイツはちょっと旅に出てるだけで必ず帰って来ますから!だから、そん時にはもっと沢山!美味いモン頼みますわ!アイツが帰ってきたらオッチャン達の店に必ず連れてきますから!」


「ポップさん……」


 ポップは明るい声でそう話すと皆の顔に明るさが戻る。町の人々は彼の人懐っこい顔をみると、とても好感が持てる少年だと思っていたが、今の彼には人々に希望を振り撒くそんな頼もしい力を感じていた。


「そうだね!ポップさんの言う通りだ!」


「さっすが!勇者の相棒!!」


「よっ!大魔道士ポップさまっ!!」


「いやぁ~ポップさまはやめてくれよ~照れちまうよ~」


「アハハハハハ!」


 ポップの周りには笑顔が生まれる、それが勇気の使徒と呼ばれる彼の魅力なのかもしれない。


 その後、ポップは少し談笑していると店主の一人の女性が声を掛けた。


「そういえば、ポップさんはダンス大会には出ないのかい?」


「ダンス大会?」


 ポップは概要を訊くとレオナらしいなと半分感心して半分呆れていた。


「姫さんも色々考えるよな~♪ま、自分が騒ぎたいのもあるのかも知れねぇけど~」


「でも、皆さん結構集まっているようで、あの銀髪の戦士様も会場にいらしてたみたいですよ?」


 店主の一人がポップに言うとポップは首を傾げている。


「銀髪の戦士?」 


「ほら、いつか魔王軍のでっかい岩みたいな巨人が襲ってきた時に私達を避難させてくれた槍を持っていた戦士様ですよ!ウチの子供達なんかあれから銀髪の勇者様!とか言ってすっかりファンになっちまって!」


「巨人?槍?銀髪?……!?まさか……!?ヒュンケルか!?えーアイツがダンス大会にぃーーー!?」


 やはりポップもその事実には驚きを隠さなかった。


「ええ、私の子供達が先程会場にいらしたと言ってましたから、間違いないかと」


「警備か何かじゃないんすか?アイツがダンスなんて想像つかない……」


「う~ん、しかしこんな平和なパーティーで警備なんて必要ですかね~警備ならお城の兵士もいますからね~」


「ふ~ん、でもそれならまぁちょっと楽しみが増えたかも♪アイツがダンスねぇ~見物だなこりゃ」


 ポップは意地悪な笑みを浮かべていると、更に店主は言った。


「あの武闘家のお嬢さんは出られないんですかね~?私、あの方のファンでして……」 


 そういう店主にポップは反応する。


「マ、マァムですか?さ、さぁアイツもダンスなんかしたこと無いだろうしなぁ~」


「あの戦士様と踊ったらさぞ見栄えしそうですな~美男美女でお似合いですからね~」


「えっ……!?お似合い!?」


 ポップは更に店主の言葉に反応する。


「ええ、そう思いませんか?」


「あ……いや、まぁ~俺にはよくわかんないスけど……」


 ポップの顔がやや曇る。


「あ、じゃあ俺この辺で!そうだお代は?」


「なぁ~に言ってるんですか!世界を救ってくれた大魔道士さまからお代なんて頂けませんよ!」


「そうよ!それにお城からたんまり今回の為に出して貰ってるから気にしなくて良いのよ♪」


「ああ!ほんっとにいい食いっぷりでありがとな!大魔道士のあんちゃん!」


「そ、そうスか?じゃ、じゃあそういう事で!ありがとうございます!ごちそうさんでした!」


「おうっ!ありがとさん!!」


 そうして、ポップは店主達に見送られてその場を後にした。が、彼等が見えなくなってからポップはさっきの店主の言葉を思い出して俯いていた。


「美男美女でお似合い……か……」


 そして、そう呟くポップの目と鼻の先にはそのダンス会場が見えてきていた。


 あの時と少し似ている……。ポップはそう感じていた。幼い頃に初めて好きになった子に気持ちを伝えようと決意したあの時に……ただ、あの時と違うのはその好きだった子との間には訪れなかった仲直りのチャンスに挑むという事だ。不思議と同じ様にポップの胸は早鐘の様に鳴る。“勇気”─早鐘の様に鳴るポップの胸にこの言葉が浮かんだ。


「よしっ!いくぜっ!!」


 ポップは足を踏み出した、早鐘はまだ少しもおさまらない。だが、あの想い人の涙や言葉がポップを突き動かしていた。そして、何より……横っ面を叩く勝利の女神のあの笑顔を見てしまった今、どうしても彼女を失いたくなかった。


 


 

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✦作者コメント✦



 さて、いよいよポップの勇気が試される?というトコでしょうか?幼い頃の苦い思い出を乗り越える意味も少し織り混ぜてという内容となりましたが、幼い頃のスティーヌから言われた言葉。これは大事です。今後においても活かしたい話しですね。

 また、今回以外と書いていて楽しかったのは各露店のグルメです 露店で食べれるという事でB級グルメを並べてみましたが、いくつかはある地域のB級グルメを登場させております。ヒントはダイの大冒険の世界地図は日本列島を模したものなので、パプニカは日本で言うと何処になるのか?(ほとんど答え(^^;)という事で……そんな遊び心も入れていて長くなりました……( ̄▽ ̄;)