ダイの大冒険─最終回後─二次小説

ダイの大冒険最終回後の二次小説になります。

メルルの占い



 


 ─エルフ─


 


 


 メルルは朝からパプニカの国民が自分の占いを目当てにして行列を作る模様に圧倒されながらも、一人一人に丁寧に占い結果やアドバイスを送っていた。みんな満足してくれているのは嬉しかったが、目の前の行列は一向に途切れそうにない。もう、かれこれ一時間以上も途切れないのだ。


「メルル、そろそろ休んだ方がいいんじゃない?」


 合間の休憩中に場を取り仕切っていたエイミもこの行列に困惑しながらメルルを気遣う。城の従者や兵士達も手を貸してくれて人員整理こそなんとか出来ていたが、行列は後からどんどん数珠繋ぎに繋がっていったからだ。


「私は大丈夫ですよ、エイミさんこそ朝早くからパーティー会場の設営でしたよね?少し何か食べて来たらどうですか?」


 メルルはエイミこそ朝から忙しくしていた事を思って気遣った。


「大丈夫よ、心配しないで。でも、やっぱりあなたの占いってスゴいわね……私も後でお願いしようかしら?」


「はい!構いませんよ……あ!?姫様!?」


「大丈夫メルル?大盛況ね!エイミもお疲れ様」


 レオナはマァムと共にメルルとエイミを労いながら姿を見せた。


「ありがとうございます!マァムさんも!」


「メルルさんが頑張ってるみたいだから、何かお手伝い出来ないかしら?」


「そうですね……」


 メルルがキョロキョロと周りを見渡しながら、マァムの気遣いに応えようとしていると。


「ちょっと待って!とりあえずこの行列をどうにかしましょう!」


 レオナがメルルを始めその場の皆に呼び掛けた。


「どうにかって姫様この行列をどうするのですか?」


「お客さんがあんなに待ってるのよ?」


「姫様、私は大丈夫ですよ!皆さんお待ちですからすぐに占いを始めますわ!」


 エイミ、マァム、メルルが口々にレオナに意見すると、レオナは人差し指を左右に動かして言った。


「大丈夫、大丈夫♪助っ人を呼んでいるから♪さっきアポロがルーラでひとっ飛びしてくれたのよ、テランまで♪」


「テランっ!?」


 皆がレオナの言葉に驚いていると、レオナがその助っ人を呼んだ。


「お願いします!」


 すると、占いテントの影から一人の老婆がアポロと共に現れた。


「お、お婆様!?」


 最初に声を上げたのはメルルだった。


「メルル、元気そうじゃないか!しかも、レオナ姫様が占いで稼がせてくれるなんて言うもんだから、来ちまったよ♪」


「まさか!お婆様が!?ひ、姫様これは!?」


 メルルは驚きのあまりレオナに慌てて説明を求める。


「テランの王様にも大戦中はお世話になったじゃない?だからアポロにテランの状況や必要な支援物資の確認やらをお願いしてテランに行って貰ってたんだけど、その直前に今日のパーティーでのあなたの占いを思い出して、こういう状況を一応想定してナバラさんにも協力を頼めるようにアポロにお願いしておいたのよ♪」 


 レオナは長い行列を見渡しながら皆に説明した。


「だから朝からアポロも姿がみえなかったのね?マリン姉さんと話してたのよ?」


「すまない、姫様からテランだけでなくカールやベンガーナ、リンガイア、も頼まれていたのでな……なかなかこのパーティーに顔を出す余裕がなかったんだ」


「すいませんねぇ~コキ使っちゃって~」


「いえ!そういうワケでは!?」


 レオナがアポロをジロリと睨むとアポロは慌てて平伏した。


「冗談よ♪ありがとう!でも、テランならポップ君にお願いしても良かったんだけどね~朝からどっか行っちゃって」


「マトリフ殿の岩屋では?」


「そのはずなんだけど、バダックに朝見に行って貰ったら、もぬけの殻だったらしいわ……まぁいないものは仕方ないけどね」


 マァムはその話を聞いてどこか気が気でない。そんなマァムにメルルも気付いて視線を向けていた。


「それで、ナバラさんにお願いしたいのは、メルルの代わりにここの占いをお願いしたいの?かなりの行列だけど大丈夫かしら?」


 ナバラも長い行列を見渡すが、ニンマリと笑うと指で輪っかを作ってみせた。


「こっちを、弾んでくれれば問題ないよ♪」


「お、お婆様!?姫様に失礼ですよっ!」


「いいのよ、知らない仲じゃないんだし♪オッケー!報酬は弾むわ♪」


「申し訳ありません!不躾な祖母で……」


 メルルは深々と頭を下げると……


「不躾とはなんだい!逞しいお婆様と言っとくれ!」


「ハハハハハ!!」


 皆がナバラの言葉に笑い声を上げると、メルルもはにかみながらペコリと頭を下げた。


「よしっ!じゃあメルルはこっちに来て!ヒュンケルとアバン先生が待っているわ!」


「えっ!ここで占うんじゃないんですか?」


 メルルはパーティー会場を見渡しながら言った。


「最初はそうしようと思ったけど、占う内容が内容じゃない?出来るだけ秘密裏の方が良いってマトリフさんがね」


「そうですか、わかりました。今準備して来ますね」


「何か準備がいるの?」


 マァムが訊ねると、以前ダイの剣を探して占いをしていた時と同じような占いの道具が一式必要だということだった。


「少し持っていくものがあるので……」


「なら、私も手伝うわ」


「ありがとうございます!」


 メルルはマァムにお礼を言うとレオナにヒュンケル達の居場所を訊いた。


「お城の中庭近くの礼拝堂に場所は用意したわ、それで大丈夫ならエイミが案内してくれるから……」


「はい!礼拝堂なら神聖な空間ですので、より占い易いです!ありがとうございます」


「良かった、じゃあエイミお願いね。私はアポロから他国の状況を確認したら向かうわ」


「畏まりました。じゃあ二人とも行きましょう!」


 そうして、メルル、マァム、エイミはヒュンケルとアバンのいる城内の礼拝堂へ、レオナはアポロと共に執務室へ向かい。ナバラはというと早速、占い道具の水晶玉に磨きをかけてお客を呼び込んでいた。


 


 一方、アバン、ラーハルトと共に城内の礼拝堂に待機しているヒュンケルは、昨夜マトリフから渡されたエルフの伝承本にあったレーヴァテインやエルフの英雄フレイルについて、二人に話していた。


「エルフの英雄フレイルですか……幼い頃に読んだ絵本にありましたね~確か……」


「レーヴァテインという剣も気になるな……」


 やはり、アバンもラーハルトもそこまで詳しい事は知らない様だった。しかし、元々エルフは他の種族との交流を避けたがる傾向がある為、アバンや魔族のラーハルトが知らなくても無理もない話だった。昨夜の本には唯一ドワーフと呼ばれる種族だけがエルフとの交流があると書かれていたが、そのドワーフにさえも巡りあったことはなかった。


「ドワーフか……質の良い武器や防具を作る事で知られている種族だな……数は少ないが、魔界にも存在していると訊いたことがある」


「魔界か………」


「武器や防具ですか……ならば、ロン・ベルクさんなら何か知っているかもしれませんね?」


「なるほど……確かにそうだな」


 ラーハルトはアバンの言葉に頷く。


「ロン・ベルクさんはノヴァさんを弟子にして、武器作りを教えていると聞きましたが……」


「ああ、我々がバーンパレスで戦っていた際に地上でザボエラの超魔ゾンビとやらを切り裂いた後、両腕に大きなダメージを負ったらしくてな…それで、ロン・ベルクはノヴァに自身の技術を託そうとしているようだ……」


「そのノヴァというヤツ……よくは知らんが、大丈夫なのか?」


 ラーハルトが訝しむ。


「ノヴァは始めはダイに対抗心を燃やしてわりと自信家なところもあった様だがロン・ベルクが認めたのだから、然程の心配はいらんだろう……それにノヴァ自身変われたのは、どこかでダイの器の大きさに感化されたのかも知れんな」


「ダイ様に対抗心を燃やすなど身の程知らずなところはあるがダイ様の影響で変われたのであれば、それもいいだろう………しかし、やはりダイ様は底知れぬ方だ……」


「アイツは自分がどれ程周りに影響を与えているか考えた事がないだろうな……」


「それ程に純粋な方なのだ……」


「そうだろう?アバン……」


 ヒュンケルは師であるアバンに確認するかのように視線を向ける。


「ええ……だからこそ私は彼に純粋さを象徴する、しるしを与えましたからね……まさに彼の強さの礎であり証として……」


 アバンは師匠として、ヒュンケルは兄弟子として、そして、ラーハルトは部下として、ダイの人となりを噛み締めていた。


「お待たせしました!」 


 声のする方をみると、メルルとマァムとエイミが占い道具一式を持って現れた。


「おやおや、これは申し訳ありません!その様な準備が必要だったとは!」


 アバンが申し訳なさそうに駆け寄るとヒュンケルも後に着いてくる。


「すまんな、メルル……それに二人も……」


 ヒュンケルはメルルに改めて詫びるとマァムとエイミにも声を掛ける。


「ううん、大丈夫よ」


「そんなに沢山あるワケじゃないし」


「ええ、アバン様も気になさらないで下さい」


「わかりました……では、早速始めますか?」


「はい!」


 そうして、メルル達は占いの道具を並べて準備を始めた。


「以前、ダイさんの剣を探すのに使った占いと同じ古代占布術を行います」


 マァムは見覚えがあったが、他のメンバーは初見の為、興味深くみていたが、特にアバンは目を輝かせて興味津々だった。


「ほ~中々に面白いですね~どのように占うでしょうか……?」


「古代の占い方法ですから珍しいかも知れません……探し物やその場所の具体的なキーワードを思い浮かべ、布に炎を落としてその焼け跡で読み取るモノですが、とりあえずはご覧になっていてください……」


 メルルはアバンに説明しながらヒュンケルに向き直る。


「それでは、ヒュンケルさん、この炎を持って何かエルフについて思い浮かべてみて下さい……その後、合図をしたらその炎をこの布の上に落として下さい」


「わかった……」


 ヒュンケルはゆっくりと目を閉じて昨夜のエルフの伝承にあったある話を思い浮かべた。


 昨夜、ヒュンケルはやや夜更かしをしてエルフの伝承を読み耽っていた。その中でエルフの飲み薬というモノがあり、エルフ族に代々伝わる秘伝の薬とあった。効果は魔法力を全快にする効果があるとされていた。しかし、ヒュンケルは魔法を使えない為、自分よりポップやダイの方が必要かとも思ったが、製法の際の材料を変えれば違う効果を持つ薬も精製可能という項目に目を付けた。錬金魔法と言われているその製法は、必要な材料を掛け合わせて新しいモノを生み出すというエルフ族に伝わる製法であったが、元は唯一友好関係を築いているドワーフ族から伝えられた製法とあった。


ヒュンケルはその時に武器や防具作りを得意とするドワーフ族の事を知ったのだ。


「どうぞ」


 メルルの合図でヒュンケルは布の上に小さな炎を落とす。すると布にみるみる焼け跡が広がるとゆっくりとメルルが言葉を紡ぎだした。


「コ……タ……ム……カ……イ……ン」


「コタムカイン……コタムカイン雪原でしょうか?」


 メルルの紡ぐ言葉にアバンが反応する。そして、一同はアバンをみる。 


「アバン先生知ってるの?」


 マァムが訊ねるとアバンは頷いて答えた。


「ええ、かつてのオーザム王国があったマルノーラ大陸にある地域ですが、かなりの豪雪地帯で雪が永遠に溶けない地域と言われています、なので私が訊いた話では100年近く人が足を踏み入れた事がないと言われている程、厳しい場所です」


「100年!?」


「なるほど……人嫌いのエルフにとっては格好の場所ってワケだな……」


 エイミは驚きの声を上げ、ラーハルトは冷静に分析するように言った。


「そうですね、エルフはそういう地域を選んで住処としているのかも知れませんね……」


「でも、素朴な疑問ですがエルフはそんな環境の厳しい地域でどうやって生きていけるんでしょうか?」


 エイミが疑問を呈するとこれもアバンが丁寧に答えた。


「それは、エルフという種族は自然の力を操れると言われていて、おそらく自分達にあった環境を作り出す方法も持ち合わせているのでしょう」


「凄いですね、それは……やはり魔法や魔術に長けている種族ということでしょうか?」


「ええ、その通りだと思います」


「ヒュンケルどうする?これで目指す場所はわかったが……」


 ラーハルトはヒュンケルにコタムカインへいつ出発するかを訊いた。


「ああ、すぐにでも立ちたいところだな……」


 ヒュンケルがそう言うと、メルルが突然声を上げる。


「あ!!こ、これは……!?」


 一同がメルルの方をみると、彼女は青ざめた表情で今、使った布の焼け跡を凝視している。


「これは!?一体……!?」


「どういうこと!?さっきの焼け跡が今も広がってる!?」


 アバンとマァムが驚いていると、アポロとの協議を終えて駆け付けたレオナが顔を出した。


「どうしたの!?騒いで!」


「ああ姫様!実は……」


 エイミがレオナに今起きた事を伝えようとすると……


「そ、そんな!?」


 メルルが悲鳴にも似た声を上げる。


「どうしたの?メルルさん!?」


 マァムが青ざめるメルルを心配して声を掛けるとメルルは恐る恐る皆に向き直り、布の焼け跡から読み取った言葉を告げた。


「い、今の焼け跡ですが、ヒュンケルさんから落として頂いた炎は問題なくコタムカインの地を示し焼け跡からのメッセージも一度はそこで止まりました。しかし、こんな事はあり得ない事なのですが、一度焼け跡から告げられたメッセージに更に何者かからのメッセージが現れました」


「何者かからのメッセージ!?」


「どういうことなのメルル!?」


 エイミとレオナが問い質す。


「メッセージの送り主はその内容から察するに………」 


 メルルは今、そのメッセージの内容に躊躇いを覚えているようで、次の言葉を言い出しづらかった。


「メルル!?どんなメッセージなの!?」


 エイミが更に詰め寄るが、ヒュンケルがエイミの肩に手を置いて彼女を制する。


「あ、ごめんなさいメルル……」


「い、いえ……」 


「メルル……何か言いにくい事なのか?俺なら構わないからよかったら訊かせてくれ……」


 ヒュンケルは穏やかにメルルを見つめて言った。


「メルルさん……大丈夫ですよ、私達はあなたを信じていますから、あなたさえ良ければ教えて下さい」


「わ、わかりました……では……」 


 メルルはヒュンケルやアバンの気遣いにメッセージを伝える決意をした。


「先程の焼け跡から告げられたメッセージですが……こう読み取れました……“汝らの思惑に応えるつもりはない。我等は他の者共に関わることはない。穢れを運ぶ者よこの警告に従わなければ永劫呪いの淵に堕ちると思え゛」


「そ、そんな!?」


 マァムが声を上げると、皆も俯いてショックを受けている様だった。


「よほどエルフという種族は厳格な様ですね……」


 さすがのアバンも悩ましい表情で語る。


「でも、そしたらヒュンケルの身体を完全に回復させる手段が……なんとかならないのかしら?エルフの信用を得て彼等と繋がれるきっかけとか……」


 レオナが考えを巡らす。


「エルフか……どうやら、思った以上に厄介な種族らしいな……」


 ラーハルトも悔しさを隠さない。


「ヒュンケル……」


「レオナが言うように何かエルフの信用を得られる手があればいいんだけど……」


 エイミもマァムもヒュンケルの事を思って考える。すると……


「みんな、すまない……俺の所為で厄介な事になってしまった……」


 ヒュンケルが珍しくしおらしい表情をみせる。


「そんなことないわ……大丈夫よ、きっと何かいい手があるわ!」


 ヒュンケルのらしくない態度にエイミは思わず敢えて明るく告げる。


「そうよ!私達はあなたの所為だなんて思ってないわ……」


 マァムも今までにないヒュンケルの変化に気遣う。


「そうです、ヒュンケル。探しましょう!何かエルフの力を貸して貰える手段を!」


 アバンもエイミやマァムに続くとヒュンケルも皆も笑顔で頷いた。


「メルル、何かないかしら?いい手が……例えば向こうからこうしてメッセージを送って来れるならこちらから、またメッセージを送って交渉するとか……」


 レオナがメルルにエルフとの交信を提案するが、メルルは首を横に振る。


「申し訳ありません……さっきのエルフからのメッセージも本来はあり得ない事なので、こちらから交信するのはとても……」


「そっか~そうね……それにメッセージの感じだと門前払いな感じもあるし……」


 レオナもメルルも思わず俯いてしまう。すると、やはり光明を見出だしたのはこの男だった。


「一筋縄ではいかない時は、今の段階で出来る事をやるしかありません。ヒュンケル、初めて剣を教えた時に私はあなたに何と伝えたか覚えていますか?」


 アバンはヒュンケルに向き直り訊ねるとヒュンケルは微笑を浮かべながら淀みなく答えた。


「あらゆる自分の要素を個々で磨き直し最後に一つにする、それがアバン流刀殺法の基本……だったな」


「そうです。そして今の状況もそれと変わりありません。一見行き詰まったかの様な状況でも今、自分の手元にあるモノを磨き直す、つまりもう一度エルフについての情報を洗い直し、見落としや気付いていない可能性を見付ける事が大切です」


「世界を旅し人々を救いながら過去の達人達が残した奥義・秘呪文に触れて学んでいく!遠回りのようでそれこそが最短の道……ですよね先生!」


 マァムもまた淀みなく答えた。


「ははっ……レイラから訊いたのですね?若き日の私のセリフを……照れますね……」


「そうだな……もう一度マトリフ殿から渡されたエルフの伝承本を研鑽し直してみよう……」


「お前がそういうなら仕方ないな……俺もそのエルフの伝承本とやらに目を通してみるか……そういえばさっきの話しもまんざらムダではないのではないか……」


「さっきの話し……?」


 ラーハルトの言葉にマァムが反応する。


「ああ、ロン・ベルクにドワーフ族について何か知らないか訊いてみると言う話だ」


「ドワーフ族?あの武器や防具を造るのを得意としている一族ですか?」


 メルルもドワーフの話を訊いたことがあった。


「ええ、どうやらエルフは唯一ドワーフ族との交流はあるようで、友好関係を結んでいる様なので同じ武器造りに精通するロン・ベルクさんなら何かご存知ではないかと……」


「そういうことね」


「それは、良い考えですね!」


「よしっ!それじゃあとりあえず方向性が定まったわね!先ずはエルフの伝承を改めて研鑽ね♪」


「それがよいでしょう、私もカールに帰って何かエルフの情報がないか探ってみますよ」


「私もお婆様に訊いてテランでのエルフについての伝承を調べてみます!」


 アバンもメルルもヒュンケルにそう伝えると改めてヒュンケルは謝辞を示した。


「本当にすまない……世話になる……」


「皆で力を合わせましょう!」 


 アバンの声に皆が改めて気持ちを合わせた。


「あ、それなら改めてマトリフさんにも訊いてみましょう!ヒュンケルに渡した本を受け取った時に他にも調べてみるとおっしゃっていたので」


「そうね、でもこのパーティーが終わるまでは難しいかも……」


「どうしてですか姫様?」


 エイミの問いにレオナはさっきたまたま露店で酒を飲みまくっていたマトリフを思い浮かべる。


「今日は、まぁ色々忘れて楽しもうってことよ♪ごめんねヒュンケルだからあなたも楽しんでね♪」


「え……あ……はぁ……」


 レオナが茶目っ気たっぷりにヒュンケルに詫びるとヒュンケルは戸惑いながら頷いた。


「さて!じゃあパーティーに戻る前にお片付けしましょう♪メルルさんこれらはどちらにお持ちしましょうか?」 


「え?ああ!そんなアバン様!私がやりますので!」


「先程お手伝い出来ませんでしたから、お任せ下さい」


「私も手伝うわ!」


「す、すいませんそしたら……」


 アバンとマァムはメルルの手伝いをしながらその間にもメルルの占いに興味があったアバンはメルルに色々と話を訊いていた。


 レオナはエイミを連れてパーティーの締めに開催するダンス大会の準備に向かい、ヒュンケルはラーハルトから言われて自室にあるエルフの伝承本の研鑽を頼んでからアバン達とメルルの手伝いをしていた。すると、マァムから少し話したい事があると告げられた。


「話し……?どうした改まって……」


「う、うん……ちょっと二人で話したいことがあるの……この後少しだけ、いいかしら?」


 その様子をメルルは横目で感じ取っていたが、アバンに声を掛けられると二人から視線を外した。しかし、メルルはそのマァムの姿勢に彼女の覚悟をみていた。マァムの気持ちが少しずつ定まっていく状況に、ポップに対する自分の気持ちと今のマァムの覚悟に焦りを感じ始めていた。


 


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✦作者コメント✦


 少しずつヒュンケル復活の道筋が見えてきました。勿論、エルフという厳格な種族との交渉はそう簡単にはいきませんが、そこはドラクエっぽくヒントを繋いで目的達成を目指していく感じですね。意外な存在が意外な活躍してくれても面白いかも知れません。