ダイの大冒険─最終回後─二次小説

ダイの大冒険最終回後の二次小説になります。

マァムとヒュンケル



 ─初恋と巣立ち─


 


 


 メルルの占い道具を片付け終わり彼女も祖母のナバラのいる占い露店に戻り、アバンもパーティー会場に戻った頃、マァムはメルルと二人でいつか話をしたバルコニーのある部屋にヒュンケルといた。


「ごめんなさい……急に……」


「いや、構わないがどうした?何か悩み事か?」


 ヒュンケルは相変わらずマァムに優しく接する。


「うん……なんて言うか……」


 珍しく歯切れの悪いマァムにヒュンケルは告げた。


「大丈夫だ、他言はしない……俺で力になれるならなんでも言ってくれ……」


 そういうヒュンケルの言葉にマァムは少し安堵しながら、彼を真っ直ぐにみていった。


「わかったわ……最初に訊きたいのだけど……」


 マァムは少し伏し目がちになりながらも直ぐに顔を上げて訊ねる。


「あなたは誰か想っている人はいる?」


「想っている人……?」


 みると、マァムは自らのその相手を思い浮かべているのかやや頬を赤らめている。


「俺は……俺にはそもそもそんな資格はない……」 


「え……?」


 マァムはヒュンケルの答えに思いがけない気持ちになる。


「俺のこの手にはどんなに拭っても取り返しのつかない罪が染み付いている。お前達の仲間になり、魔王軍の連中を不幸にしていくことが、俺のその償いのつもりで戦って来た。そして、その中で俺はお前やみんなのおかげで光の力を取り戻すことも出来た……しかし……」


 マァムはヒュンケルの言おうとしている事がよくわかった。彼を救い、彼を思い、仲間として彼と共にあることを信じて今までやって来たからこそ、彼の背負った罪の重さに彼自身がなかなか整理をつけられない事をマァムは改めて感じた。


「確かにあなたは、恐ろしい事をしてきた……でも、それ以上にあなたは沢山の人達を守ってきたのよ。勿論、それとこれとは違うのもわかる。でも、もしあなたが本当に許されないなら、あなたが幸せになることを誰かや何かが許せないなら私はその相手からあなたを守るわ!」


 マァムはかつてミストバーンがヒュンケルを自らの汚点として始末しようとした際にも同じ様な事を言ってヒュンケルを守ろうとした。


「マァム……」


「あなたは幸せになっていいのよ……ううん、むしろそのあなたの罪を乗り越えて幸せになって欲しい!あなたなら出来る筈よ……だってあの恐ろしい暗黒闘気に打ち勝ったんだから!」


 ヒュンケルは瞳を閉じてマァムの言葉を自らの内で反芻した。そして、初めて彼女がみせたあの地底魔城での微笑みを思い出していた。いや、それだけではない……パプニカでのミストバーンとの戦いの時も……そして、魔王軍に捉えられ処刑寸前でマァムや皆が自分とクロコダインを救い出してくれた時も……マァムはいつでも自分を信じてくれた。いつでもヒュンケルにとってマァムは光そのものだった。


「お前は光なんだ……俺にとって……」


「え……?」


「アバンを父の敵として憎み、お前達と初めて相まみえた時……お前は俺の荒んだその心に光を与えてくれた……このパプニカでのミストバーンとの戦いで奴の挑発に乗り俺が再び暗黒闘気で戦おうとした時も……そして、魔王軍に囚われ処刑寸前で完全に俺が光の力に目覚めた時も……お前は俺のその光を信じてくれた……」


「ヒュンケル……」


 マァムは不思議な気持ちになった。真っ直ぐに自分を見つめてそう語るヒュンケルに何故か今までにない……いや、今まで自分が気付かなかった感情が感じられた。それは例えるなら幼い子供の成長を嬉しく思う親の感情とでもいうのだろうか……母親になった事のない彼女に何故、そんな感情が生まれるのか……さっきの守るという言葉にもそんな感情が含まれている気がした。


「メルルと先日、今日の占いの件を頼んだ時に少し話をしたんだ……」


「メルルさんと……?」


 ヒュンケルが言うメルルとの事を意外に思ったマァムは訊ねる。


「ああ……その時に俺を救ってくれたお前に感謝をしているという話をした……」


「ヒュンケル……」


「そして、幸せになって貰いたいと……」


 マァムはそう語るヒュンケルの気持ちが素直に嬉しかった。そして……


「いつか、あなたに言われたわね……みんなの為の愛ではなく自分の為の愛って……いつか自らの意思で誰かを愛するようになるって……」


「ああ……」


 マァムはその時のヒュンケルの言葉が今、少しずつ理解出来ていた。


「私は……あなたと初めて出会ってからずっとあなたを他の人と同じ様にみていたつもりだったけど、でも正直どこか違うようにみていたのだと思うの……だから、エイミさんがあなたを想っている事を知って……思わず戸惑ってしまった……そしてその感情が、もしかしたらあなたを……失ってしまうという怖さなのか、それとも私達意外にあなたを理解しようとする人に対する戸惑いや嫉妬からなのか……はっきり解らなかった……でも……」


「でも……?」


「でもその時に私、その自分の気持ちを……彼の気持ちも知らずにポップに教えて貰いたいと思って……それで……彼に……酷い事を……」


 マァムはあの時の自分の気持ちを確かめる為にポップを求め、そして傷付けた事を未だに悔やんでいた。


「そうか……それで、あの時のアイツはお前に……」


 ヒュンケルは、あのミナカトール発動直前にポップの勇気のしるしが光らなかった時の事を思い出していた。


「彼が怒るのも今思えばムリもないことだわ……それでずっとその事を考えているうちに気付いたの……私……私は……彼と初めて出会った時から無意識にポップを求めていた事を……クロコダインとロモス城で戦ってダイや私がピンチに陥った時も……あのハドラーと初めて私が相まみえたその時も……そして、今あなたに話したエイミさんのあなたへの気持ちを知った時も……」


 マァムは正直に自分の中のポップへの気持ちをヒュンケルに話した。そして、ヒュンケルはマァムが最も失いたくない存在はポップだったのだと気づいた。だがヒュンケルはそれを不思議と微笑ましく感じた。いや、きっと嬉しかった。


「それがあの時、俺がポップに対して言葉に出来ない想いを確かめに行くと良いとお前に言った答えなんだろうな……」


「え……!?」


「だが今、敢えて俺は同じことをお前に言おう……もう一度、アイツとしっかり話してみろ……今、俺に話したことも全て伝えて……そして自分の気持ちだけでなくアイツの答えを改めて確かめに行けば良い……」


「ヒュンケル……」


 ヒュンケルは優しい眼差しを向けてマァムに頷いた。


「わかったわ……なら、一つあなたも約束して……」


「約束……?」


「もう、過去の罪に囚われないで……あなたの幸せを掴んで」


「マァム……」


「私も私の幸せを掴むから!」


 マァムの瞳には強い光が宿っていた。


「そうか……わかった……」


「あなたはあなたが思っているよりもずっと素敵な人よ……」


「なんだか照れ臭いな……」


「それと……」


「………?」


「エルフの住処を見付けられる様、祈ってるわ、私に出来ることがあったら言ってね!」


 マァムは笑顔でそう言うとヒュンケルは微笑を浮かべて頷いた。


「ああ……」


 そして、二人はそれぞれ部屋を出て、ヒュンケルはラーハルトがエルフの研鑽をしているであろう自室にマァムはポップを探しにパーティー会場に戻っていった。


 マァムはその途中、ヒュンケルに対する自分の気持ちを改めて考えていた。母性愛というモノがあるならそういうモノなのかも知れないとも思ったが、初恋ということもあったのかも知れない。でも、今はもう自分の中にはただ一人の人しかなかった。ヒュンケルにはエイミという彼を想いその気持ちを貫こうとしている頼りがいのある女性がいる。ヒュンケルは彼女の気持ちに応えられないとは言っていたが、今の彼は少しずつ変わり始めている。それは人としても一人の男性としても……だから、心配などしていなかった。彼はもう自分から巣立とうとしている……そして、自分も……さっきのようにそんな母親が抱く気持ちに似たようなモノをマァムは感じていた。


「あ~あ……なんだか母さんに会いたくなってきちゃったな……」


 マァムは大きな蒼い空を見上げて1人呟いた。


 今のこの気持ちを母に伝えたい。不思議と晴れやかなこの気持ちとこの先の未来にある幸せを信じたいと思うこの気持ちを……


 母レイラも父であるロカと出会った時にこんな気持ちを抱いたのだろうか……マァムは無性にそれを確かめたい気持ちに駆られながら、盛り上がるパーティー会場に向かった。


 

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✦作者コメント✦



 一つの決着といったところでしょうか。このマァムとヒュンケルの絆というのはとても強く、未来においては二人の世界というのを想像する事も決して難しくない間柄でした。しかし、それでもお互い違う未来に向かって歩き出すといった展開にしてみました。それはお互いに信頼しお互いに大切だからこそ、互いの新たな未来に希望を持って送り出すという事であり、マァムもヒュンケルも人として成長する為にこの形が必要な気がしました。難しかったのですが、上手く表現出来ていれば何よりです。