ダイの大冒険─最終回後─二次小説

ダイの大冒険最終回後の二次小説になります。

帰還 Ⅰ



 


 ─友情の華─


 


「本当にマァムには逢っていかなくていいんですか?ポップ……」


 アバンの問いにポップは俯いたままだ。


 食堂で朝食を取っているであろうマァムと顔が合わせづらいポップにレオナが気を利かせて特別にアバンとポップに朝食の為の部屋を用意してくれた。


「まぁでも私は心配してはいませんけどね……」


「え……?」


 ポップは顔を上げて朝食を楽しんでいるアバンを見る。


「あなた達は、考えてみたらまだお互い出逢ったばかりでしょう?確かにこの数ヶ月で随分と濃密な時間は過ごしていますが、まだまだお互いに知らない事もあるでしょうし、これからですよ二人とも♪」


「先生……」


「ゆっくり考えることです……あなたもマァムも……まだまだ若いんですから、ね♪」


 アバンの茶目っ気たっぷりのウィンクにポップも優しく微笑する。


「ありがとうございます先生……俺いつもそうなんです……想いを寄せている相手につい心ない言葉をぶつけちまって………」


 ポップがそう言って俯く。


「マァムならきっとわかってくれますよ、彼女も私の弟子ですから……真剣にあなたの事を考えてくれますよ……」


 ポップはアバンのその言葉の一つ一つを噛み締めた。そして、マァムの笑顔を思い浮かべる。


「先生…俺……本当にマァムが好きです……」


 照れも恥じらいも何も感じることなく、本当に自然とポップの口からマァムへの想いが零れた。


「ええ……」


 ポップがアバンの目を見ると優しく穏やかな瞳で微笑んでいてくれた。澄んだその瞳はポップの胸に清々しい風を運んだ。


「先生、ランカークスに帰る前に少しだけ時間貰えませんか?」


「……?構いませんがどうしたのですか?」


「マァムに……手紙を書こうと思って……なんか、まだ会って話すより手紙の方が良いかなって……そんなの書くの初めてなんですけど……」


 ポップは少しだけ照れながら言う。


「それはとても良いと思いますよ、少しでも気持ちが伝われば心も軽くなるでしょう」


「アイツがどう受け取ってくれるかわからないけど……今の俺の全てを伝えるつもりで書きます……それで、その……」


「わかりました。書き上げたら私に預けて頂いて構いませんよ、出発前にマァムに渡しておきます」


「ありがとうございます」


 ポップはアバンに頭を下げるとアバンはポップの肩に手を置いて、顔を上げるポップにもう一度優しく微笑み頷いた。


 


 コンコン!


「はい……」


 朝食後に部屋でネイル村に帰る為の荷造りをしていたマァムは扉をノックする音に応えた。


「私、レオナだけど……少し良い?」


「あ……う、うん……どうぞ……」


 レオナが扉を開けるとマァムはやはり冴えない表情でベッドに佇んでいた。


「マァム……先ずは謝らせて……本当に昨日はごめんなさい!!」


 レオナは誠心誠意心から頭を下げた。大切な親友で、仲間で、そして同じアバンの使徒でもあるマァムをいくらパーティーの催しと言え自分の浅はかな考えでこれ程までに傷付けてしまったのだ。


「ううん、レオナは悪くないわ……元々私がポップを怒らせちゃったんだもの……」


「でも、昨日も言ったけどあなたはもっと自信を持っていいの!あなたにポップ君が怒ったのはあなたに自分をもっとわかって欲しいって思ったからじゃないの?つまりあなたを求めているんじゃない?」


「私を……でも、でも……私はまた……ポップを……」


 マァムは昨日のポップの項垂れて走り出す背中を思い出していた。


「それについては……私もポップ君にちゃんと謝るわ……」


「え……?」


 マァムはレオナの顔をみる。するとレオナは申し訳なさそうな顔をしながらも言う。


「そして、あなたの今伝えたい事をポップ君に伝える……ううん、伝えさせて欲しい……!」


「レオナ……?」


「そんなことだけであなた達への償いが果たせるとは思えない……でも何か今あなた達に出来る事をしたいの……」


「………」


 レオナの言葉にマァムは俯くとその膝の上で強く自分の手を握り締める。そして、その手には一つ、二つと涙が零れ落ちた。


「マァム……」


「ありがとう……ありがとう……レオナ……私…私……本当にポップに背を向けられるのが怖くて……顔を合わせても……もしまた、背を向けられたらと思うと……どうしていいのか……わからなくて……」


 ポップの事で、これまで何度も何度もマァムは涙を流してきた、ダイを見捨てようとした彼に失望したあのロモスの時も……キルバーンの罠でポップが絶体絶命に陥った時も、そして……あのバーンにポップが人間の尊さ、価値、誇りを命の底から叫んだ時も……


 


  『閃光のように…!!!』


 


 そう、確かに何度も泣かされた、だが、それ以上に彼はマァムを支えてくれた。どこかで彼を守っているつもりだったのにいつの間にかポップの存在を頼りにしていた。つまり、ポップが自分を守ってくれていたのだ。


 やがて、マァムは涙を拭い前を向いた。


 マァムは自分の涙の意味をようやく理解した。


 マァムはその心の内の最も大切な部分にいつでもポップがいたことを改めて思い出していた。


「マァム……?」


 レオナはまだ心配そうな顔をしているが、マァムの顔はみるみる変わっていく。


「もう……なんでアイツはいつもいつも私を泣かすのよ……フフ……」


 マァムの顔には優しい笑顔がある。レオナはその笑顔で安堵の涙を流す。


「マァム……マァム……良かった……ホントに……」


 今度はレオナが涙を流しながら、マァムの手を強く握る。レオナは自分の罪を本当に重く感じていたのだ。それ故にマァムが今見せてくれた笑顔が本当に嬉しかった。


「レオナ……ありがとう……あなたのおかげよ……」


「マァム……」


「あなたの一言一言は本当に私に大切な事を気付かせてくれる……これからも大切な大切な……親友でいてね……」


「うん、勿論よ!!!」


 マァムとレオナはお互い笑顔で抱き締め合った。深い深い友情を感じ合った。そして……


「さっきね……朝食前にメルルさんが来てくれたの……」


「メルルが……?」


「うん、その時にダンス会場にポップを連れて来た事を謝ってくれたんだけど……」


「うん……」


「でも、メルルさんはポップに私から逃げて欲しくないって思いで彼をあの場に連れて来たって聞いて、彼の為に行動をしたメルルさんに対して私、その時にもしかしたらポップの隣には私よりメルルさんの方が相応しいのかも知れないと思ってしまったの……」


 マァムは正直にその時の気持ちをレオナに語った。


「そうだったの……」


 レオナは重く頷く、しかしマァムの表情は対照的だった。


「でもね……私、やっぱり負けたくない!」


「マァム……うん!そうね!でもメルルもそう簡単には引き下がらないわよ!」


「ええ、受けて立つわ!」


 コンコン!


「……!?」


「……!?」


 突然のノックに二人は驚いた。


「は、はい!?どうぞ!」


 マァムが声を上げて応えると……


「あの……マァムさん……」


 扉を開けて顔を覗かせたのはメルルだった。


「メルル……!?」


「メルル……!?」


 メルルはマァムとレオナが同時に声を上げた為、やや驚いた。


「ど、どうされたんですか!?お二人とも!!」


「う、ううん!ところでどうしたの?」


「あの……今朝のマァムさんの様子がどうしても気になって……」


 マァムが慌てて訊ねるとメルルは今朝のマァムの事が気掛かりで再度訪ねたという事だった。


「そうだったの……ごめんなさいね……心配させちゃって……」


「いえ……私の方こそ……余計なことを……」


「余計なこと?」


 レオナが怪訝に思い訊ねる。


「昨日の事もそうですし、今朝も何か余計なことを言ってしまったのかと……」


 マァムとレオナは顔を見合わせるそして……


「そうね、余計なことをしたわね……」


 レオナがメルルに強い視線を作って向ける。


「ひ、姫様……!?」


「だって、あなたは強力なライバルにまた火を点けちゃったのよ?」


「え……?」


「昨日、あなたがポップ君をダンス会場に連れて来ちゃったからヒュンケルとマァムのダンスをみて背を向けていくポップ君を彼女はまた追いかけたくなっちゃったんだもの!」


「えーーーー!?」


「えーーーー!?」


 レオナの絶妙?な作り話にマァムもメルルも声を上げる。


「なによそれは!?」


「あら、だってポップ君を男として自分に振り向かせたいんじゃないの?」


「そ、そうなんですかマァムさんっ!?まさかそこまでポップさんの事を……!?」


 メルルも驚いてマァムに訊ねる。


「えー!?あ、いや……その……えと……」


 マァムは顔を真っ赤にしてしどろもどろになる。


「私も負けませんから!!マァムさん!!」


「メ、メルル!!わ、私だって!!負けないわよ!!」


 マァムとメルルは勇ましく力むが、そんなお互いの姿に思わず吹き出して笑顔を交わした。


「フフフ!」


「フフフ!」


「さぁ~て~♪まだまだこれから面白くなりそうな展開♪」


 レオナがニヤニヤしながら楽しげに呟くと……


「姫様っ!!!」


「レオナっ!!!」


 レオナは真剣にポップを想う二人に雷を落とされた。


 だが、三人はすぐに笑顔の花を咲かせる。それぞれがそれぞれを思い、互いの失策や患う心を癒し合う。マァムもレオナもメルルもそれぞれは違う人格であっても、こうして笑い合える関係性をずっとずっと大切にしていきたいと心から感じている笑顔だった。



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✦作者コメント✦

 


 我ながら良い話しになってホッとしました 先ずは、やはりアバンですね。優しく語り掛けるだけで、彼は全てを包み込んでくれるような暖かさがありますから、それにポップを少し甘えさせてみました。アバンは本編でポップに厳しく接する時もありますが、優しく彼を心から信頼している描写もありましたので、本当に素晴らしい人格者であり、優れた家庭教師(笑)ですよね。

 さて、三人娘ですね いい関係です ✌️最後にも書いてますが、互いに支え合っていける素敵な関係性をなんとか表現しようと考えていまして、今回そんなところが書けて本当にホッとしております。マァムとメルルはどう決着するのか?ダイを失ったレオナを二人はどうやってこれから支えていくのか?まだまた、書き手の課題は尽きませんが、頑張ります  ❗