ダイの大冒険─最終回後─二次小説

ダイの大冒険最終回後の二次小説になります。

涙とその決意




─バカ勇者─ 


 


 静まり返った空間。


 


 ここパプニカの王宮は、大魔王の手から平和を勝ち取った国の一つとは思えない程、静寂に包まれていた。


 そんな城内の一室。パプニカ王国の姫レオナの寝室において部屋の主であるレオナは一日振りにその瞼をゆっくりと開いた。頭の中はまだ靄がかかった様にぼんやりとしている。が、その澄んだ瞳が朝の陽光を捉えると、頭の中にいつもの冴えが戻りつつあった。


 しかし、昨日の朝この目で目の当たりにした悲しい光景をも脳裏に浮かび、再び全身が引き裂かれるように痛んだ。特に胸が過呼吸に陥ったあの時のように苦しくなる。


 だが、レオナは歯を食いしばって今度は耐えた。


 


負けるな!


 


 そう自分自身に言い聞かせながら………。


 やがて、呼吸も整い気持ちが落ち着いてくると周りに目を向ける余裕が出てきた。ふと見ると傍らにはパプニカ三賢者のマリンとその妹エイミが椅子に腰掛けた形のまま舟を漕いでいた。そして、もう一人。占い師の出で立ちの黒髪の少女メルルもその傍らにいる二人と同じ様に頭をこっくりこっくりさせていた。


 


(マリン、エイミ、メルル………ごめんなさい…心配掛けて…)


 


 レオナがそう胸の中で呟くと、占い師という立場上か、一際感覚の鋭いメルルが何かに気付いたように目を開けた。


「メルル!」


「え!あ!?ひ、姫様!」


その声にマリンとエイミも目を覚ました。


「姫様!」


「姫様!ああ!良かった!お目覚めになられて!」


「マリン、エイミ、そしてメルル……心配掛けたわね本当にごめんなさい」


 レオナは三人に心から謝罪の意を示し頭を下げた。一国の主として 情けなくも恥ずかしいところをみせて大切な家臣や仲間に心配させてしまったという気持ち故のことだった。


「何を言われます!」


「そうですよ!あんな熾烈な大戦を潜り抜けられたのですから無理もありません!それに……」


 エイミはそこで言葉を止めた。今、ダイのことを口に出して良いものか憚られたからだ。


「ありがとうエイミ、そうねさすがにこれは堪えたわね……辛くないと言われれば、正直嘘になるわ」


 エイミはレオナを気遣う表情で俯いている。


 マリンもレオナのあまり見せることのない憔悴した表情に何も口に出来なかった。


「あの、姫様」


 が、沈黙に支配されそうになっていたこの場にメルルが小さく声を出した。


「どうしたの?メルル」


 メルルは少しだけ申し訳なさそうな表情で話し出した。


「実は今、ポップさんも……」


「メルル!それは今は……!」


 メルルの言葉をエイミが慌てて制した。それは、今のレオナには少しでも不安や負担を掛けない様にという臣下の配慮ではあったが、レオナはエイミに静かに頷いてみせてメルルの言葉を促した。


「メルル、ポップ君がどうかしたの?」


「も、申し訳ありません!ですが昨日のあの爆発の際にポップさんが爆風と衝撃の所為で大きなダメージを負って、今でも目を覚まされてないんです」


「なんですって!?」


 レオナは昨日の悲劇の場面を思い出していた。そうだ、あの時。死神キルバーンが作動させた黒の核晶(コア)の時限装置人形をダイとポップが上空高くに運び上げたのだ。しかし、ダイはポップを巻き込まない為に彼を爆発の寸でのところで蹴落としたのだが、黒の核晶(コア)の爆発の衝撃はポップに大きなダメージを与えていたのだと理解した。


「それで、誰が彼を看てるの?」


「アバン様とマァムがポップ君についている様です」マリンが答えた。


「そう、それならとりあえずは任せておけそうね………とはいえ、でもやっぱり一度様子を見にかないといけないわ」


「姫様!目を覚まされたばかりなのに、起き上がるのはまだ早過ぎます!」エイミが止めると。


「大丈夫よ!丸一日も寝ていたんだもの、完全回復してるわ!それよりもあなた達の方こそ休みなさい、目の下のクマがスゴいわよ」


 レオナのその言葉に三人は慌てて顔を見合わせる。それを見てレオナは優しく微笑みながら自身の回復に尽力してくれた三人に感謝した。


 その後、マリン、エイミ、メルルの三人はそれぞれ身体を休める為に退きレオナは一人、部屋着から人前に出れる服装に着替えると、彼女の意識は眠りにつく前のいつもの状態に高まっていた。


 


「ポップ君、大丈夫かしら……」


 いつもは王家の出自である自分に対しても平気で軽口を叩くお調子者の彼が、今は掛け替えのない親友を失い更に身体的にも大きなダメージを負って眠りについている。レオナはそんなポップの心の痛みが解るような気がした。


 


自分は掛け替えのない愛する人に………


彼は掛け替えのない親友に………


 


背を向けられた。


 


 無論、それはダイの優しさでもあり大切な人達を守りたいという使命感でもあったことは自分も彼の親友にも容易に理解できる。


しかし、あの直前に自身が尊敬し目標とする人物。カール王国の女王フローラから言われた言葉が浮かんでくる。


 


(少々嫌がられてもしっかり捕まえとかなきゃだめよ!


勇者なんてことか済んだらすぐ何処かに消えてしまうんだから)


 


 ずっと想い人であるアバンを待ち続けていた彼女だからこそ、一時はアバンの死に大きな絶望と悲しみに苛まれたことだろう。彼女はその時、アバンの死をどう受け止めたのだろう。いつか訊きたいと思っていた事が今、レオナの中でとてつもなく大きなモノになろうとしていた。アバンに当て付けるように言った先の言葉もアバンが生きていたからこそ言えること。


自分には今のこの状況をどう受け止めたら良いのか解らなかった。


再びその澄んだ瞳から涙が溢れそうになる。


レオナはグッと力強く瞼を閉じた。


そして両の手を強く握り締めた。


 


負けるな!


 


 先刻、ベッドの上で再び過呼吸に陥りそうになった時と同じ様に強く自分に言い聞かせる。そして、今度は息を大きく吸い込み深呼吸を一度した。


やがて、ゆっくりと開いたその瞳は真っ直ぐと前を見据えていた。


レオナはその歩を進める。


不安もある、絶望も感じないと言われれば嘘になる。


でも、それでもあの小さな勇者の生存を信じる。


あの屈託のない笑顔をまた、一番近くで見れる事を信じる。


 


「もうっ!バカ勇者!」


 


 潤いを湛えるその瞳が光ると、笑顔でそう呟いて、レオナはこの部屋の扉を開いた。


 

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◼作者あとがき


 ポップと同じか、違う意味でまた、ダイを失う辛さをレオナは受けているので、姫として王国を率いる者としてではなく、一人の女性としてのレオナの弱さを今回は少し出そうと思いました。でも、やはり決意に変えて前に進んでいくのが彼女らしいところなので、そこも忘れずに…といった感じですね。

 あとは、三賢者の中でもマリンとエイミはレオナとは姉妹のような関係性だと思ってそれを入れたかったので、看病役はこの二人という形にして、メルルはレオナの妹的な感覚で原作もみていたので、メルルも加えました。マァムをポップの側に置くということも当然、念頭に入れてます。ただ、メルルとポップもお似合いなんですよね。悩みどころです。我ながら難しい話しに手を付けたものです(;´A`)