ダイの大冒険─最終回後─二次小説

ダイの大冒険最終回後の二次小説になります。

メルルの占い



 


 ─エルフ─


 


 


 メルルは朝からパプニカの国民が自分の占いを目当てにして行列を作る模様に圧倒されながらも、一人一人に丁寧に占い結果やアドバイスを送っていた。みんな満足してくれているのは嬉しかったが、目の前の行列は一向に途切れそうにない。もう、かれこれ一時間以上も途切れないのだ。


「メルル、そろそろ休んだ方がいいんじゃない?」


 合間の休憩中に場を取り仕切っていたエイミもこの行列に困惑しながらメルルを気遣う。城の従者や兵士達も手を貸してくれて人員整理こそなんとか出来ていたが、行列は後からどんどん数珠繋ぎに繋がっていったからだ。


「私は大丈夫ですよ、エイミさんこそ朝早くからパーティー会場の設営でしたよね?少し何か食べて来たらどうですか?」


 メルルはエイミこそ朝から忙しくしていた事を思って気遣った。


「大丈夫よ、心配しないで。でも、やっぱりあなたの占いってスゴいわね……私も後でお願いしようかしら?」


「はい!構いませんよ……あ!?姫様!?」


「大丈夫メルル?大盛況ね!エイミもお疲れ様」


 レオナはマァムと共にメルルとエイミを労いながら姿を見せた。


「ありがとうございます!マァムさんも!」


「メルルさんが頑張ってるみたいだから、何かお手伝い出来ないかしら?」


「そうですね……」


 メルルがキョロキョロと周りを見渡しながら、マァムの気遣いに応えようとしていると。


「ちょっと待って!とりあえずこの行列をどうにかしましょう!」


 レオナがメルルを始めその場の皆に呼び掛けた。


「どうにかって姫様この行列をどうするのですか?」


「お客さんがあんなに待ってるのよ?」


「姫様、私は大丈夫ですよ!皆さんお待ちですからすぐに占いを始めますわ!」


 エイミ、マァム、メルルが口々にレオナに意見すると、レオナは人差し指を左右に動かして言った。


「大丈夫、大丈夫♪助っ人を呼んでいるから♪さっきアポロがルーラでひとっ飛びしてくれたのよ、テランまで♪」


「テランっ!?」


 皆がレオナの言葉に驚いていると、レオナがその助っ人を呼んだ。


「お願いします!」


 すると、占いテントの影から一人の老婆がアポロと共に現れた。


「お、お婆様!?」


 最初に声を上げたのはメルルだった。


「メルル、元気そうじゃないか!しかも、レオナ姫様が占いで稼がせてくれるなんて言うもんだから、来ちまったよ♪」


「まさか!お婆様が!?ひ、姫様これは!?」


 メルルは驚きのあまりレオナに慌てて説明を求める。


「テランの王様にも大戦中はお世話になったじゃない?だからアポロにテランの状況や必要な支援物資の確認やらをお願いしてテランに行って貰ってたんだけど、その直前に今日のパーティーでのあなたの占いを思い出して、こういう状況を一応想定してナバラさんにも協力を頼めるようにアポロにお願いしておいたのよ♪」 


 レオナは長い行列を見渡しながら皆に説明した。


「だから朝からアポロも姿がみえなかったのね?マリン姉さんと話してたのよ?」


「すまない、姫様からテランだけでなくカールやベンガーナ、リンガイア、も頼まれていたのでな……なかなかこのパーティーに顔を出す余裕がなかったんだ」


「すいませんねぇ~コキ使っちゃって~」


「いえ!そういうワケでは!?」


 レオナがアポロをジロリと睨むとアポロは慌てて平伏した。


「冗談よ♪ありがとう!でも、テランならポップ君にお願いしても良かったんだけどね~朝からどっか行っちゃって」


「マトリフ殿の岩屋では?」


「そのはずなんだけど、バダックに朝見に行って貰ったら、もぬけの殻だったらしいわ……まぁいないものは仕方ないけどね」


 マァムはその話を聞いてどこか気が気でない。そんなマァムにメルルも気付いて視線を向けていた。


「それで、ナバラさんにお願いしたいのは、メルルの代わりにここの占いをお願いしたいの?かなりの行列だけど大丈夫かしら?」


 ナバラも長い行列を見渡すが、ニンマリと笑うと指で輪っかを作ってみせた。


「こっちを、弾んでくれれば問題ないよ♪」


「お、お婆様!?姫様に失礼ですよっ!」


「いいのよ、知らない仲じゃないんだし♪オッケー!報酬は弾むわ♪」


「申し訳ありません!不躾な祖母で……」


 メルルは深々と頭を下げると……


「不躾とはなんだい!逞しいお婆様と言っとくれ!」


「ハハハハハ!!」


 皆がナバラの言葉に笑い声を上げると、メルルもはにかみながらペコリと頭を下げた。


「よしっ!じゃあメルルはこっちに来て!ヒュンケルとアバン先生が待っているわ!」


「えっ!ここで占うんじゃないんですか?」


 メルルはパーティー会場を見渡しながら言った。


「最初はそうしようと思ったけど、占う内容が内容じゃない?出来るだけ秘密裏の方が良いってマトリフさんがね」


「そうですか、わかりました。今準備して来ますね」


「何か準備がいるの?」


 マァムが訊ねると、以前ダイの剣を探して占いをしていた時と同じような占いの道具が一式必要だということだった。


「少し持っていくものがあるので……」


「なら、私も手伝うわ」


「ありがとうございます!」


 メルルはマァムにお礼を言うとレオナにヒュンケル達の居場所を訊いた。


「お城の中庭近くの礼拝堂に場所は用意したわ、それで大丈夫ならエイミが案内してくれるから……」


「はい!礼拝堂なら神聖な空間ですので、より占い易いです!ありがとうございます」


「良かった、じゃあエイミお願いね。私はアポロから他国の状況を確認したら向かうわ」


「畏まりました。じゃあ二人とも行きましょう!」


 そうして、メルル、マァム、エイミはヒュンケルとアバンのいる城内の礼拝堂へ、レオナはアポロと共に執務室へ向かい。ナバラはというと早速、占い道具の水晶玉に磨きをかけてお客を呼び込んでいた。


 


 一方、アバン、ラーハルトと共に城内の礼拝堂に待機しているヒュンケルは、昨夜マトリフから渡されたエルフの伝承本にあったレーヴァテインやエルフの英雄フレイルについて、二人に話していた。


「エルフの英雄フレイルですか……幼い頃に読んだ絵本にありましたね~確か……」


「レーヴァテインという剣も気になるな……」


 やはり、アバンもラーハルトもそこまで詳しい事は知らない様だった。しかし、元々エルフは他の種族との交流を避けたがる傾向がある為、アバンや魔族のラーハルトが知らなくても無理もない話だった。昨夜の本には唯一ドワーフと呼ばれる種族だけがエルフとの交流があると書かれていたが、そのドワーフにさえも巡りあったことはなかった。


「ドワーフか……質の良い武器や防具を作る事で知られている種族だな……数は少ないが、魔界にも存在していると訊いたことがある」


「魔界か………」


「武器や防具ですか……ならば、ロン・ベルクさんなら何か知っているかもしれませんね?」


「なるほど……確かにそうだな」


 ラーハルトはアバンの言葉に頷く。


「ロン・ベルクさんはノヴァさんを弟子にして、武器作りを教えていると聞きましたが……」


「ああ、我々がバーンパレスで戦っていた際に地上でザボエラの超魔ゾンビとやらを切り裂いた後、両腕に大きなダメージを負ったらしくてな…それで、ロン・ベルクはノヴァに自身の技術を託そうとしているようだ……」


「そのノヴァというヤツ……よくは知らんが、大丈夫なのか?」


 ラーハルトが訝しむ。


「ノヴァは始めはダイに対抗心を燃やしてわりと自信家なところもあった様だがロン・ベルクが認めたのだから、然程の心配はいらんだろう……それにノヴァ自身変われたのは、どこかでダイの器の大きさに感化されたのかも知れんな」


「ダイ様に対抗心を燃やすなど身の程知らずなところはあるがダイ様の影響で変われたのであれば、それもいいだろう………しかし、やはりダイ様は底知れぬ方だ……」


「アイツは自分がどれ程周りに影響を与えているか考えた事がないだろうな……」


「それ程に純粋な方なのだ……」


「そうだろう?アバン……」


 ヒュンケルは師であるアバンに確認するかのように視線を向ける。


「ええ……だからこそ私は彼に純粋さを象徴する、しるしを与えましたからね……まさに彼の強さの礎であり証として……」


 アバンは師匠として、ヒュンケルは兄弟子として、そして、ラーハルトは部下として、ダイの人となりを噛み締めていた。


「お待たせしました!」 


 声のする方をみると、メルルとマァムとエイミが占い道具一式を持って現れた。


「おやおや、これは申し訳ありません!その様な準備が必要だったとは!」


 アバンが申し訳なさそうに駆け寄るとヒュンケルも後に着いてくる。


「すまんな、メルル……それに二人も……」


 ヒュンケルはメルルに改めて詫びるとマァムとエイミにも声を掛ける。


「ううん、大丈夫よ」


「そんなに沢山あるワケじゃないし」


「ええ、アバン様も気になさらないで下さい」


「わかりました……では、早速始めますか?」


「はい!」


 そうして、メルル達は占いの道具を並べて準備を始めた。


「以前、ダイさんの剣を探すのに使った占いと同じ古代占布術を行います」


 マァムは見覚えがあったが、他のメンバーは初見の為、興味深くみていたが、特にアバンは目を輝かせて興味津々だった。


「ほ~中々に面白いですね~どのように占うでしょうか……?」


「古代の占い方法ですから珍しいかも知れません……探し物やその場所の具体的なキーワードを思い浮かべ、布に炎を落としてその焼け跡で読み取るモノですが、とりあえずはご覧になっていてください……」


 メルルはアバンに説明しながらヒュンケルに向き直る。


「それでは、ヒュンケルさん、この炎を持って何かエルフについて思い浮かべてみて下さい……その後、合図をしたらその炎をこの布の上に落として下さい」


「わかった……」


 ヒュンケルはゆっくりと目を閉じて昨夜のエルフの伝承にあったある話を思い浮かべた。


 昨夜、ヒュンケルはやや夜更かしをしてエルフの伝承を読み耽っていた。その中でエルフの飲み薬というモノがあり、エルフ族に代々伝わる秘伝の薬とあった。効果は魔法力を全快にする効果があるとされていた。しかし、ヒュンケルは魔法を使えない為、自分よりポップやダイの方が必要かとも思ったが、製法の際の材料を変えれば違う効果を持つ薬も精製可能という項目に目を付けた。錬金魔法と言われているその製法は、必要な材料を掛け合わせて新しいモノを生み出すというエルフ族に伝わる製法であったが、元は唯一友好関係を築いているドワーフ族から伝えられた製法とあった。


ヒュンケルはその時に武器や防具作りを得意とするドワーフ族の事を知ったのだ。


「どうぞ」


 メルルの合図でヒュンケルは布の上に小さな炎を落とす。すると布にみるみる焼け跡が広がるとゆっくりとメルルが言葉を紡ぎだした。


「コ……タ……ム……カ……イ……ン」


「コタムカイン……コタムカイン雪原でしょうか?」


 メルルの紡ぐ言葉にアバンが反応する。そして、一同はアバンをみる。 


「アバン先生知ってるの?」


 マァムが訊ねるとアバンは頷いて答えた。


「ええ、かつてのオーザム王国があったマルノーラ大陸にある地域ですが、かなりの豪雪地帯で雪が永遠に溶けない地域と言われています、なので私が訊いた話では100年近く人が足を踏み入れた事がないと言われている程、厳しい場所です」


「100年!?」


「なるほど……人嫌いのエルフにとっては格好の場所ってワケだな……」


 エイミは驚きの声を上げ、ラーハルトは冷静に分析するように言った。


「そうですね、エルフはそういう地域を選んで住処としているのかも知れませんね……」


「でも、素朴な疑問ですがエルフはそんな環境の厳しい地域でどうやって生きていけるんでしょうか?」


 エイミが疑問を呈するとこれもアバンが丁寧に答えた。


「それは、エルフという種族は自然の力を操れると言われていて、おそらく自分達にあった環境を作り出す方法も持ち合わせているのでしょう」


「凄いですね、それは……やはり魔法や魔術に長けている種族ということでしょうか?」


「ええ、その通りだと思います」


「ヒュンケルどうする?これで目指す場所はわかったが……」


 ラーハルトはヒュンケルにコタムカインへいつ出発するかを訊いた。


「ああ、すぐにでも立ちたいところだな……」


 ヒュンケルがそう言うと、メルルが突然声を上げる。


「あ!!こ、これは……!?」


 一同がメルルの方をみると、彼女は青ざめた表情で今、使った布の焼け跡を凝視している。


「これは!?一体……!?」


「どういうこと!?さっきの焼け跡が今も広がってる!?」


 アバンとマァムが驚いていると、アポロとの協議を終えて駆け付けたレオナが顔を出した。


「どうしたの!?騒いで!」


「ああ姫様!実は……」


 エイミがレオナに今起きた事を伝えようとすると……


「そ、そんな!?」


 メルルが悲鳴にも似た声を上げる。


「どうしたの?メルルさん!?」


 マァムが青ざめるメルルを心配して声を掛けるとメルルは恐る恐る皆に向き直り、布の焼け跡から読み取った言葉を告げた。


「い、今の焼け跡ですが、ヒュンケルさんから落として頂いた炎は問題なくコタムカインの地を示し焼け跡からのメッセージも一度はそこで止まりました。しかし、こんな事はあり得ない事なのですが、一度焼け跡から告げられたメッセージに更に何者かからのメッセージが現れました」


「何者かからのメッセージ!?」


「どういうことなのメルル!?」


 エイミとレオナが問い質す。


「メッセージの送り主はその内容から察するに………」 


 メルルは今、そのメッセージの内容に躊躇いを覚えているようで、次の言葉を言い出しづらかった。


「メルル!?どんなメッセージなの!?」


 エイミが更に詰め寄るが、ヒュンケルがエイミの肩に手を置いて彼女を制する。


「あ、ごめんなさいメルル……」


「い、いえ……」 


「メルル……何か言いにくい事なのか?俺なら構わないからよかったら訊かせてくれ……」


 ヒュンケルは穏やかにメルルを見つめて言った。


「メルルさん……大丈夫ですよ、私達はあなたを信じていますから、あなたさえ良ければ教えて下さい」


「わ、わかりました……では……」 


 メルルはヒュンケルやアバンの気遣いにメッセージを伝える決意をした。


「先程の焼け跡から告げられたメッセージですが……こう読み取れました……“汝らの思惑に応えるつもりはない。我等は他の者共に関わることはない。穢れを運ぶ者よこの警告に従わなければ永劫呪いの淵に堕ちると思え゛」


「そ、そんな!?」


 マァムが声を上げると、皆も俯いてショックを受けている様だった。


「よほどエルフという種族は厳格な様ですね……」


 さすがのアバンも悩ましい表情で語る。


「でも、そしたらヒュンケルの身体を完全に回復させる手段が……なんとかならないのかしら?エルフの信用を得て彼等と繋がれるきっかけとか……」


 レオナが考えを巡らす。


「エルフか……どうやら、思った以上に厄介な種族らしいな……」


 ラーハルトも悔しさを隠さない。


「ヒュンケル……」


「レオナが言うように何かエルフの信用を得られる手があればいいんだけど……」


 エイミもマァムもヒュンケルの事を思って考える。すると……


「みんな、すまない……俺の所為で厄介な事になってしまった……」


 ヒュンケルが珍しくしおらしい表情をみせる。


「そんなことないわ……大丈夫よ、きっと何かいい手があるわ!」


 ヒュンケルのらしくない態度にエイミは思わず敢えて明るく告げる。


「そうよ!私達はあなたの所為だなんて思ってないわ……」


 マァムも今までにないヒュンケルの変化に気遣う。


「そうです、ヒュンケル。探しましょう!何かエルフの力を貸して貰える手段を!」


 アバンもエイミやマァムに続くとヒュンケルも皆も笑顔で頷いた。


「メルル、何かないかしら?いい手が……例えば向こうからこうしてメッセージを送って来れるならこちらから、またメッセージを送って交渉するとか……」


 レオナがメルルにエルフとの交信を提案するが、メルルは首を横に振る。


「申し訳ありません……さっきのエルフからのメッセージも本来はあり得ない事なので、こちらから交信するのはとても……」


「そっか~そうね……それにメッセージの感じだと門前払いな感じもあるし……」


 レオナもメルルも思わず俯いてしまう。すると、やはり光明を見出だしたのはこの男だった。


「一筋縄ではいかない時は、今の段階で出来る事をやるしかありません。ヒュンケル、初めて剣を教えた時に私はあなたに何と伝えたか覚えていますか?」


 アバンはヒュンケルに向き直り訊ねるとヒュンケルは微笑を浮かべながら淀みなく答えた。


「あらゆる自分の要素を個々で磨き直し最後に一つにする、それがアバン流刀殺法の基本……だったな」


「そうです。そして今の状況もそれと変わりありません。一見行き詰まったかの様な状況でも今、自分の手元にあるモノを磨き直す、つまりもう一度エルフについての情報を洗い直し、見落としや気付いていない可能性を見付ける事が大切です」


「世界を旅し人々を救いながら過去の達人達が残した奥義・秘呪文に触れて学んでいく!遠回りのようでそれこそが最短の道……ですよね先生!」


 マァムもまた淀みなく答えた。


「ははっ……レイラから訊いたのですね?若き日の私のセリフを……照れますね……」


「そうだな……もう一度マトリフ殿から渡されたエルフの伝承本を研鑽し直してみよう……」


「お前がそういうなら仕方ないな……俺もそのエルフの伝承本とやらに目を通してみるか……そういえばさっきの話しもまんざらムダではないのではないか……」


「さっきの話し……?」


 ラーハルトの言葉にマァムが反応する。


「ああ、ロン・ベルクにドワーフ族について何か知らないか訊いてみると言う話だ」


「ドワーフ族?あの武器や防具を造るのを得意としている一族ですか?」


 メルルもドワーフの話を訊いたことがあった。


「ええ、どうやらエルフは唯一ドワーフ族との交流はあるようで、友好関係を結んでいる様なので同じ武器造りに精通するロン・ベルクさんなら何かご存知ではないかと……」


「そういうことね」


「それは、良い考えですね!」


「よしっ!それじゃあとりあえず方向性が定まったわね!先ずはエルフの伝承を改めて研鑽ね♪」


「それがよいでしょう、私もカールに帰って何かエルフの情報がないか探ってみますよ」


「私もお婆様に訊いてテランでのエルフについての伝承を調べてみます!」


 アバンもメルルもヒュンケルにそう伝えると改めてヒュンケルは謝辞を示した。


「本当にすまない……世話になる……」


「皆で力を合わせましょう!」 


 アバンの声に皆が改めて気持ちを合わせた。


「あ、それなら改めてマトリフさんにも訊いてみましょう!ヒュンケルに渡した本を受け取った時に他にも調べてみるとおっしゃっていたので」


「そうね、でもこのパーティーが終わるまでは難しいかも……」


「どうしてですか姫様?」


 エイミの問いにレオナはさっきたまたま露店で酒を飲みまくっていたマトリフを思い浮かべる。


「今日は、まぁ色々忘れて楽しもうってことよ♪ごめんねヒュンケルだからあなたも楽しんでね♪」


「え……あ……はぁ……」


 レオナが茶目っ気たっぷりにヒュンケルに詫びるとヒュンケルは戸惑いながら頷いた。


「さて!じゃあパーティーに戻る前にお片付けしましょう♪メルルさんこれらはどちらにお持ちしましょうか?」 


「え?ああ!そんなアバン様!私がやりますので!」


「先程お手伝い出来ませんでしたから、お任せ下さい」


「私も手伝うわ!」


「す、すいませんそしたら……」


 アバンとマァムはメルルの手伝いをしながらその間にもメルルの占いに興味があったアバンはメルルに色々と話を訊いていた。


 レオナはエイミを連れてパーティーの締めに開催するダンス大会の準備に向かい、ヒュンケルはラーハルトから言われて自室にあるエルフの伝承本の研鑽を頼んでからアバン達とメルルの手伝いをしていた。すると、マァムから少し話したい事があると告げられた。


「話し……?どうした改まって……」


「う、うん……ちょっと二人で話したいことがあるの……この後少しだけ、いいかしら?」


 その様子をメルルは横目で感じ取っていたが、アバンに声を掛けられると二人から視線を外した。しかし、メルルはそのマァムの姿勢に彼女の覚悟をみていた。マァムの気持ちが少しずつ定まっていく状況に、ポップに対する自分の気持ちと今のマァムの覚悟に焦りを感じ始めていた。


 


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✦作者コメント✦


 少しずつヒュンケル復活の道筋が見えてきました。勿論、エルフという厳格な種族との交渉はそう簡単にはいきませんが、そこはドラクエっぽくヒントを繋いで目的達成を目指していく感じですね。意外な存在が意外な活躍してくれても面白いかも知れません。

 希望の宴



 


 ─二人の乙女─


 


 


 翌日の午前より始まったアバンの為のフェアウェルパーティーとパプニカ国民の為の復興決起パーティーはレオナ姫の主導で大盛況なパーティーが催された。


 パプニカの城下町にある広場がそのパーティーのメイン会場となった。そして、そのメイン会場を中心に復興途中とは思えない程の様々な露店が並び、好きな料理をそれぞれが選んで食べれる形式で好評だった。また、この時とばかりに温めていたのかパプニカ国民や城の兵士達の中には大道芸を披露する者達が場を盛り上げていたり、力自慢達が腕相撲で競っていたり、また子供達は何故かチウや獣王遊撃隊、更にはヒム達と仲良く遊び廻っていた。


「はぁ~!こいつはスッゲェなぁ!さっすが姫さん!スケールが違うぜ!」


 ポップは少し高台から、大盛況のパーティー会場をみて感心していた。


「おめぇは行かねぇのか?」


 後ろからマトリフが声を掛ける。


「ん?あ、ああ……そうだな……」


「あん?なんだ歯切れ悪いな……おめぇはこういうのキライじゃねぇだろうが?」


 マトリフがポップの様子を怪訝に思い、彼の視線の先をみると会場ではマァムがレオナやマリン達と談笑していた。


「なんだぁ?またお前ら何かあったのか~?」


「なっ!?なんだよっ!何かって!何にもねぇよっ!!」


 ポップは解りやすく狼狽える。


「はぁ~成長しねぇ奴らだな~お互い好きなら好きでとっととくっついちまえよ!」


「そ、そんな簡単なもんじゃねぇんだよっ!!」


「ふぅ~ん……そんなモンかね~」


「と、とにかく……今はそういう場合じゃねぇだろ!ダイを一刻も早く見付けないと、もしかしたらヴェルザーのヤツがよ……」


 ポップはその瞳に力強さを宿す。


「まぁ、確かにそうだな……ヤツが動けない今こそチャンスでもある。だからこそダイの帰還はなんとしても必ず成し遂げないとならない……そういや、おめぇ目を覚ましたあの時以来アバンとは話したか?」


「え?いや……てか、ずっと師匠ん家で言われた魔導書読んでたんだから会ってねぇよ……」


「なんだ、そうなのか?仕方ねぇなぁ……まぁアバンも色々この先の事で姫さんとの協議やら何やらで確かに忙しそうだしな……とはいえ、このパーティーが終わればアイツはカールに帰っちまうからよ、なんとか掴まえて話をしとけ……まぁ、でもおめぇがルーラで後からカールに行ってもいいけどな……」


「そういう手もあるか……でも、やっぱりなんか味気ないから今日中に話すよ」


「ああ、そうしろ……さてと……俺は酒でも呷ってくるかな♪」


 そう言うとマトリフはいそいそと会場に向かって行った。


「あんまり飲み過ぎんなよ~」


「うーるせ!ヒヒ……」 


 マトリフが去るとポップは再び会場に目を向ける。その視線の先はやはり愛しい人を捉えている。


「マァム……なんで俺はあんなこと……」


 ポップは昨夜のマァムに強く投げた言葉に後悔していた。


「謝らねぇとな……」


 俯きながらも、ポップはその胸に勇気を起こして会場に向かおうとした……と、その時、一際長い行列が出来ている場所を見付けた。


「ん?なんだ?よっぽど美味いモンでも売ってんのか?」


 その行列の先は露店が並ぶ片隅にあり露天自体は一見目立たなかったが、その長い行列がある意味で宣伝効果になっていた。ポップが行列の先を辿ってみると……


「ん!?占い……あ!?メルル!!メルルじゃねぇかっ!!」


 その一際長い行列の先にはメルルが小さな占いのテントを作って開いていた。


「メルルがまさか、露店出すとはな……はは……」


 ポップは意外なメルルのたくましさ?に驚いていたが、実はレオナの提案だったという事を彼は知らなかった。


 


 一方……マァムはキョロキョロと回りを見渡している。


「ひ~ちかれた~!」


 マァムが声のする方をみるとチウがヘロヘロになって歩いたいた。


「チウ!どうしたのそんなになって……」


 マァムはヘロヘロのチウを気遣う。


「マァムさん!いやぁ~子供達に好かれちゃって好かれちゃって、参っちゃいますよ♪」


 チウは子供人気をマァムにアピールする。


「へぇ~子供達に人気なのねチウは!」


「いやぁはははは~そんなことありますよ~ははは!」


「あっ!見付けたぞおばけネズミ!」


「おばけネズミじゃない!!おおネズミだっ!!はっ!?しまった!!」


「まてまて~」


「まてまて~」


「それじゃあマァムさん!また!ひぇ~!!」


 チウは明らかに子供達から逃げるように去っていった。


「鬼ごっこしてたのね……」


 言いながらマァムはまた、回りをみる。


「ポップ……やっぱり来てない……」


 マァムは昨夜の事をポップに謝りたかった。しかし、朝からこのパーティーの準備をしながらこの会場にいるが、どうしてもポップの姿を見付ける事が出来ない。そんな時、レオナがそんなマァムに気付いて声を掛けた。


「マァムこっちこっち!」


 呼ばれて行ってみると、レオナの指示でマリン達が何かの準備をし始めている。


「レオナこれは?」 


 マァムがレオナに訊ねると、レオナはニンマリと笑って言った。


「このパーティーのシメにダンス大会をして終わろうと思ってね♪その準備よ♪」


 そう言ってレオナはウィンクをする。


「それで?」


 ところが、そっけない返事のマァムにレオナは肩を落とす。


「まーったく!相変わらずニブイ娘ね~あなたも出るのよ」


「え?そのダンス大会に?」


「そ♪みんな参加しないとつまらないでしょ?」


「でも、私ダンスなんか踊れないわよ?やったことないもの……」


「大丈夫よ~♪そんなに難しくないし、運動神経の塊の様なあなたなら直ぐに出来るわ♪」


「運動神経の塊って……ま、まぁそうだけど……」


 マァムはレオナの相変わらずな物言いに苦笑する。


「ね!はい、じゃあお願いね♪」


 レオナはマァムの後ろから肩を叩く。しかし……


「ちょっ!ちょっとレオナ!私はまだ出るなんて言ってないわよ!」


「そんな事言わないで♪あなた程の美人と踊りたい人なんて沢山いるんだから!華が出ないでどうするのよ♪」


「で、でも……」


 マァムは本当に困った。ダンスが踊れない事もそうだが、もしそんなダンスで誰かと踊っている姿をポップに見られたら今度こそ本当に嫌われてしまうかもしれない。マァムはそんな不安に駆られたのだった。


「後は~ポップ君ね~」


「えっ!?」


 マァムはレオナの口からポップの名前が出て思わず驚いた。


「も~さっきから探してるのに全っ然!見掛けないのよね~どこで油売ってんのかしら!」


「ね、ねぇポップも踊るの?」


「まぁ……踊れるかどうかはわからないけどね♪でも、ヒュンケルだって参加するんだから!」


「ヒュンケルも!?」


 さすがにこれにはマァムは本気で驚いた。あのヒュンケルがまさかダンスをするなんて全く想像が出来なかったからだ。


「ええ、昨日の夜にエイミが特訓したそうよ♪近頃、積極的なのよね~エイミったら♪マァムもうかうかしてられないわよ♪」


 レオナがマァムをつつくとマァムは戸惑いながら言う。


「わ、私は別にヒュンケルとエイミさんがどうなっても……」


 しかし、そう言いながらもマァムは口ごもる。


「素直になれば?そうじゃないと本当に取られちゃうわよ?」


 相変わらずハッキリした性格のレオナだが、どこかその瞳の奥には物悲しさを湛えている。


「素直になるって言っても……ねぇレオナ……相談に乗って貰えないかな……」


「相談……?」


 マァムは思い切ってレオナに今の自分の状況を丁寧に話した。勿論、昨夜のポップとの事も……そして、レオナはマァムが話し出すとそれまでの冷やかした雰囲気は直ぐに消し去って、真剣な眼差しでマァムの話に耳を傾けた。


「なるほどね……まぁ、確かにポップ君が眠っている時からなんとなくあなたの雰囲気が変わって来ていたのはわかってはいたけど……それにしても急ね」


「そ、そう……かな……私なりに色々と考えていたんだけど……でも、やっぱりまだ……自分の中でハッキリ出来なくて……それで、昨日……ポップを怒らせちゃって……」


「でも、あなただってポップ君があなたとメルルとの間で揺れてるのも許せなかったんでしょ?」


「そ、それは……でも、やっぱり……メルルさんだって、ポップと頭の中で繋がれるくらい想っているわけじゃない?だから……」


「仕方ないの?」


「え?」


「ポップ君とメルルがそうして特別な力で繋がれるから、あなたは彼を諦めても仕方ないの?」


「そ、そんなこと!」


 マァムはポップを諦めるというレオナの言葉に敏感に反応する。


「そんなことないって、どうして言えるの?」


 レオナは更にマァムに詰め寄る。


「そ、それは……」


 マァムは俯いてしまう、するとレオナはマァムの肩に手を置く。そして、彼女が顔を上げると優しく微笑んで言った。


「それが、あなたの素直な気持ちなんじゃない?諦めたくないんでしょ?仮にポップ君とメルルに特別な繋がりがあっても」


「レオナ……」


「あなたの中ではきっともう答えは出てるのよ、でもあなたはその答えに気付く勇気がないだけ……あなたが本当に自分に正直に生きていけば、どんな形であれ後悔なんてない筈よ?」


 レオナはマァムに諭すように話す。マァムはそれを真剣に訊いていた。


「ヒュンケルの事はどうなの?」


 すると、今度は唐突にヒュンケルの話しになる。


「急にまた、ヒュンケルの話し?」


 戸惑うマァムにレオナは答える。


「でも、大切な事でしょ?ちゃんとハッキリさせないと、またポップ君にどやされちゃうわよ?」


「そ、そうだけど……私は……」


「ヒュンケルにだって、彼を慕うエイミという存在がいるし、ポップ君にもメルルがいるわよね……そしたら、あなたはどうなるの?」


「私……?」


 マァムは真剣に思い悩む。ポップがメルルとヒュンケルがエイミと結ばれたとしたら、自分は………どうすれば良いのか?ポップやヒュンケルを心から祝福出来るのか?自分の正直な気持ちを考えてみた。


「皆の幸せが一番大切。でも、私自身の幸せだって大事にしたい。それは本心で思っているわ……でも、だからこそ誰も傷付けたくない……そんな事は無理だって解ってても……どうしても割り切れないの……」


 マァムはいつかアバンに同じ様な話をした時の事を思い出していた。


「いい娘ちゃんね~マァムは……」


「わ、私は別に……!?」


「ううん違うのよ、あなたを非難したんじゃないの、それがあなたの魅力なんじゃない?ってことよ」 


「え?」


「そういうのを確かに毛嫌いする人もいるわ、でも私はあなたのそういう考え方は好きよ、ていうかそれが人として当たり前なんだと思うわ、好きな人がいて、好きでいてくれる人がいて、それってそんな生き方や環境にいない人にとっては贅沢な事なのかも知れないし、それでも自分を含めみんなが幸せになって欲しいって思うと欲張りにもみえるのかも知れない……でも、私はみんなの幸せを純粋に思えるあなたの考え方は尊敬出来るわ!」


「レオナ……」


「私はこんな年で一国を背負う立場になっちゃったじゃない?お父様やお母様が生きていた幼い時はこんな事になるなんて考えもしなかった……だから、正直に言えばかなりのプレッシャーよ……毎日……でもね同じ位、やっぱり責任を大切にしなけれればこの立場にいる資格はないの……その責任の一部にこの国だけてなく、これまで繋がれた自分の回りの人達の幸せを守るっていう使命があると思ってる……」


 レオナは一国の王女として、自身の信念と使命感をマァムに語る。


「だから私はあなたの幸せを守る使命があるし、あなただけじゃなくポップ君やメルルやヒュンケル、勿論エイミもこの国の全ての人達の幸せを守りたいの!つまり、それってあなたの皆が幸せになって欲しいって思う事と根本は同じなのよ、だからあなたは自分にもっと自信を持っていいの!」


「アバン先生にも、同じ様な話をしたんだけど、人を想うことも時に戦いだって言われたわ……でもね、それは自分との戦いだって……私、今きっと初めて自分自身とその幸せに向き合おうとしているのかも知れない……ただ、やっぱり怖いのよ……自分の選んだ道で誰かが傷付いたり、自分が傷付いたりするのが……」


「そうね、でもそれはおかしな事じゃないわ。間違ってもいない。でも、足らないって事はあるのかも?」


「足らない?」


「うん、もっと信じてあげていいんじゃない?あなたの回りの人達の強さや優しさを」


 マァムはそのレオナの言葉に、今の自分の中にある不安を乗り越えられる可能性を感じた。


「みんなをもっと信じるってこと?」


「ええ、思い浮かべてみて、あなたが今、思い悩んでいる先にいる人達の事を……そして、その一人一人の強さと優しさを……」


 マァムはゆっくりと目蓋を閉じて考える。


 ヒュンケルの事……エイミの事……メルルの事……そして、ポップの事……


「その中であなたが、他とは違う何かを感じる人がいると思うの?どうかしら?」


 レオナは静かに言う。すると、マァムはゆっくりと目を開けて答える。


「そうね、それぞれとても大切な人達……でも、一人だけ……その人は一人だけとても近くに感じる……」


「なら、あなたはその人を求めてるのよ……無意識にね……」


「無意識に?」


 レオナの分析にマァムは目をパチパチさせる。


「近くに感じるのは近くにいて貰えると信じているからだと思わない?例えば家族、近くにいるのが当たり前だって思えるくらい特別な存在でしょ?逆に家族意外には、なかなかそうは思えないわ、人様にはそれぞれ生き方も都合もあるし……でも、あなたの中のその人は、あなたが近くに感じるならきっと家族と同じくらい、もしくわある意味それ以上に大切な存在ってことよ、きっと」


 マァムはそんなことを考えた事もなかった。でも改めて言われると頷ける事も多い。今、マァムが思い浮かべるその人は確かに家族という感覚に最も当てはまる気がした。


「家族意外で飾らない姿をお互いに見せられる関係ってとてもステキなコトよ♪だって、それってお互いの良いところも悪いところもわかり合える可能性があるってことだもの!大切な人とはわかり合いたいものじゃない?」


 レオナはマァムに優しく説くように言った。そして、マァムも頷く。


「あなたがあなたに正直でいれば、その気持ちは必ず届くはずよ、その相手が本当にあなたを想ってくれているなら……」


 その確信の籠った言葉だけで、マァムは自信が持てたような気がした。これまでは、傷付けたくない、傷付きたくない、そんな気持ちがどこかで先行していた気がする。勿論、相手を傷付けて何も感じない人間になるつもりはないし、当然なりたいとも思わない。でも、それ以上にもっと相手を信じてみようと思った。もっともっと好きになろうと思えた。しかし、ふとレオナを見るとさっきも浮かべていた寂しげな目をしている。が、その時マァムは気付いた。


「レオナ……ありがとう……でも……ごめんなさい……」


「えっ!?」


 マァムの突然の謝辞にレオナは戸惑う。


「私……自分の事ばかりで……だから、今度はあなたの気持ちを訊かせて……」


「マァム……」


 レオナはマァムの言葉の意味を直ぐに理解した。そして、同時にその瞳は潤いを湛えていた。


「寂しいわ……本当に……彼がいるだけで……離れていることはあっても彼の存在をいつも感じているだけで、いつでも私は私でいられた……」


 レオナはダイのあの屈託のない笑顔を優しく深く思い浮かべていた。


「でも……今は……結構ギリギリなよよね……自分を保っていられるのも……」


「レオナ……」


 マァムはレオナの中の人。ダイの大きさが彼女にとってその多くを占めている事を改めて深く理解出来た。


「もしかして……このパーティーを開いたのも……」


 マァムはレオナが主宰として開いているこのパーティーに何かを感じて訊ねた。アバンやパプニカの復興の為だけではない何かを……


「正直言えば、私のわがままよ……どうしてもダイ君の事を考えちゃって……こうして無理やりにでも皆で騒がないと……苦しくて……」


「レオナ……」


「それに、勢いをつけたいの!ダイ君の捜索隊を立ち上げる為に!」


「ダイの捜索隊!?」


 レオナの真意はそこにあった。無論、アバンやパプニカの為のパーティーでもあったが、このパーティーで勇者ダイ捜索隊の立ち上げとパプニカ以外にもダイの情報を求める御触れを出すつもりだった。


「だから、マァム!あなたも力を貸して!!」


 レオナはマァムの手を握り協力を要請する。


「もちろんよ!必ずダイを探し出しましょう!!」


 マァムはレオナと笑顔を交わして誓いあった。


 そう、あの純粋な笑顔を湛えいつも皆に希望を与えてきた勇者をこの地上に必ず連れ戻す。それは、レオナやマァムだけではなく、世界中の人々が求めることでもあったからだ。実はレオナの元には、この数日の間にも勇者ダイの行方を求める声がパプニカ中から集まっていた。国民の声は勇者を求めている、ならば一国を統べる自分はその声に応えなければならない。そして、それは当然の事ながら自分自身の為でもある。レオナはダイもパプニカもどちらも大切だからだ。


「良かったわ、あなたと話せて……ありがとうマァム」


「私こそありがとう。やっぱりレオナはハッキリ言ってくれるから頼りになるわ」


 二人は笑ってお互いの気持ちを確かめあった。そして、その使命を解り合った。親友とも姉妹とも言える二人だからこそ、解り合えた部分なのかも知れない。


「とりあえずどうするの?ポップ君と仲直り?」 


「そうしたいのは山々だけど……その前にヒュンケルと少し話したいかな……」


「そうね、必要なことね。ちゃんと確かめないと」


「うん、前に進めないから!」 


 マァムは改めて前を向いた。そして誓った。自信を持って大切な幸せを掴む為に。


「レオナも頑張って!必ずダイはあなたの所へ帰ってくるわ!」


 レオナはその言葉が心から嬉しかった。アバンに言われた時も、そして、今も……その言葉には熾烈な大戦を共に潜り抜けてきた仲間の確信が満ちていたからだ。


 


 そして、二人は次にメルルの所に向かった。エイミに場の仕切りを任せてはいるが、行列が途切れないところをみると中々、苦慮している様なのでレオナが助け船を出しに向かった。

 

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✦作者コメント✦



 長い!とにかく長くなり過ぎました(^^; いくらかこれでも削りましたが、今後の展開にも繋がる大切なエピソードなのでご容赦くださいませm(_ _)m まぁ、もっと長いエピも今後あるかも知れないので……

 さて、ポップですね。やらかした後の後悔は本編でも彼の成長フラグ でもあるので、今度はどう成長していくのか?本編を読んでいてもワクワクしていたので、ロモス編しかり、メドローア習得編しかり、やらかし後の彼を楽しみにしているひねくれ者でございます。

 さて、もう一人のやらかしさんのマァムさんは、やはり色恋沙汰のフォローはレオナでしょう!アバンだけでは中々厳しい言葉もマァムには言えないかもしれないので、レオナのキャラクターは本当に有難い❗ズケズケ言いながらも、親友の真剣な悩みにはちゃんと寄り添う。アバンとも違う、マトリフとも違う視点でマァムの心を支えていける存在ですからね。勿論、彼女自身も抱えているモノがあるからこそ、マァムの気持ちにちゃんと向き合えるのでしょう。

ただ、書いていて思いましたが、いかに国主とは言え本当に14才!?と思える大人振り!色んな意味で才女です。レオナ姫。

賢者のダンス指南


  ─エルフの英雄─


 


 


「そう、そうよ、はい!イチ、ニ、イチ、ニ!」


「お、おお……」


 ヒュンケルは夕食後にエイミに声を掛けられ、何故かダンスの指南を受けていた。


「うん、やっぱりスジがいいわね♪さすがよヒュンケル!」


「そ、そうか?しかし、なんでダンスなんか俺がしなくてはならないんだ?」


 ヒュンケルは慣れない事をさせられ、戸惑いが拭えない様子だ。


「絶対に姫様が明日はダンス大会を開かれるから、ヒュンケルがもし指名されても恥を掻かないようにしてあげてるのよ?」


 レオナ主宰で開かれる明日のアバンのいわゆるフェアウェルパーティーと復興決起会で、レオナが必ずダンス大会を開くと踏んで、ダンス未経験のヒュンケルに指南していた。


「しかし、指名されたら断れば済む話しだろう?」


「甘いわよヒュンケル!姫様がワインで酔ってからがダンス大会の始まりなのよ!酔った姫様には誰も逆らえないんだから!」


 エイミは過去に何度も酔ったレオナにエライ目に遭わされていた事を切々とヒュンケルに説いた。その際にレオナに意見しようものなら、しつこく絡みまくられ大変な思いをするのだ。


「パーティー自体はとても楽しいんだけど、姫様が飲み過ぎなければね~だから、私達も色々大変なのよ」


「そうか……俺は酒は飲まないからな……姫がそんな風になるとは以外だった……そういえば前にパプニカで小さな宴会をした時も酔っていたのを見掛けたな……」


「ああ、あの時ね……でも、今回はあの時の規模のパーティーじゃないからきっと姫様はしゃぐわよ」


 エイミは苦笑しながら言うが、世の中が平和になった証でもあることを思うとレオナや皆が明日はきっと心から楽しめる会になれば良いと思っていた。そして当然、今目の前にいる愛しい人にとっても……


「明日は良い会になるといいな……」


「ええ、そうね……ねぇところでヒュンケル、昼間にアバン様から伺ったのだけど……」


「ん?どうした?」


「エルフの住処を探してるの?」


「ああ、この身体を元の戦える状態に戻すことは、ダイの探索に向かう為にも必要だからな……」


「そう……でも、確かにそうね……ダイ君の捜索と言ってもどんなところまで探すのかも解らないし万全な状態で臨みたいという気持ちはよくわかるわ……それに、きっと貴方はそうすると思っていたし……」


「……エイミ?」


 エイミは立ち上がると一冊の本をヒュンケルに手渡した。


「これは?」


「さっきマトリフさんが貴方に渡してくれって……アバン様から貴方の事を聞いてマトリフさんが持っていたエルフについての伝承が集められた本を渡してくれたの」


「そいつは有難い、すまないエイミ……」


 ヒュンケルは心からそう思って、エイミに謝辞を示すと早速その本を開いた。すると、中にはエルフについての多くの伝承が記されていた。


「私よりも、アバン様やマトリフさんに御礼を言って……あ、それとマトリフさんからの伝言だけどその伝承はあくまで言い伝えだから、真偽の程は確かではないけど、全てがそうとは言い切れないって……」


「マトリフ殿がそう言うのなら、有力な情報を得られる可能性はあるだろうな……」


 ヒュンケルはそう言うと、真剣にその本を閲覧し始めた。エイミはそのヒュンケルの横顔を見ていると、自分が彼の役に立てた事に喜びを感じた。


「それじゃあ、私はそろそろ行くわね」


「ああ……本当にありがとうエイミ、恩に着る……」


「私は貴方の役に立てればそれでいいのよ、貴方の身体が完全に回復するように私も祈っているわ……」


「一刻も早くダイを見付け出さなければいけないしな……」


「そうね……姫様の為にも……それじゃあ、おやすみなさい……」


「ああ……また明日……」


 エイミはこのヒュンケルの言葉が胸に染みた。また明日……そう、また明日も彼の顔を見れる……彼の側にいれる……それだけで、今は幸せだった。いつか、彼を振り向かせたいという思いよりも、このささやかな幸せを大切にしたいという想いを胸に深く丁寧に納めた。


 


 ヒュンケルはエイミ伝てでマトリフから受け取ったエルフの本を再び開いていた。すると、その中の一説にエルフの戦士という文言を見咎めた。


「ほう、エルフの世界にもやはり戦える者がいるようだな……」


 詳しく読んでいくと、剣や槍術に長けたエルフもいるらしく、更に魔法を己の武器に纏わせて繰り出す技も得意としているようだった。


「成る程……魔法を武器に纏わせるか……ダイが俺との戦いで使っていた魔法剣の様なものか……」


 ヒュンケルはかつて、魔王軍の不死騎団長として、ダイと対峙した事があったが、ダイはその際にライデインをその武器に纏って放ったライデインストラッシュでヒュンケルに敗北を味わわせた。


「だが、俺には魔法は使えんからな……ん?これは……」


 そうして、ダイとの戦いを少し思い出しながら読み進めていくと、そこにはエルフの世界の英雄と呼ばれている、ある戦士の事が書かれていた。


「光のエルフの王フレイル……かつて神が光のエルフに与えた国を治めていた王にして、エルフ最強の剣士と詠われた英雄。神の一族の血を引いていた彼はレーヴァテインという炎を纏った剣を使いこなした戦士であった。……レーヴァテイン……か……」


 かつてラーハルトから託された鎧の魔槍は、彼が甦ったことにより、本来の持ち主の元に戻った。その為、今のヒュンケルには自身の装備を持ち合わせていなかった。戦いは終わり、バーンパレスでもその持ち合わせた力の全てを使い切り、戦いに明け暮れる道はようやく終えたかと思っていたが、生来の戦士であるのか、ヒュンケルはレーヴァテインという名の剣に不思議と惹かれていた。


 

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✦作者コメント✦



 ヒュンケルの道筋も少しずつ書いています。今回は少し、エイミとの濃い?時間を前半に展開しつつ、後半のエルフ関連に繋げました。エイミ、エルフ、ちょっと似てる?というのは置いといて……(^^; ただ、エイミはヒュンケルの為に生きているという姿も少しずつ出していきたいと思います。彼女も重要なキャラですので。

で、最後に出てきましたヒュンケルの武器。仮に復活してもラーハルトの鎧の魔槍を使うワケにもいかないし、そしたらまた、ロン・ベルクさんにお願い?と思いきや彼はもう武器は作れないし……ノヴァじゃさすがにまだ無理だろう……まぁファンタジーなので、ムリヤリご都合展開でも良いかもしれませんが、やはり違う展開を考えている中で、レーヴァテインという剣を思い付きました。これがどう関わるのか?まだ先の話ではありますが、ちゃんと書いていこうと思います。